秘密法と検査院 ここでも憲法の軽視か - 毎日新聞(2015年12月10日)

http://mainichi.jp/articles/20151210/k00/00m/070/097000c
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特定秘密保護法憲法をめぐる問題がまた一つ浮かび上がった。
2013年12月の秘密法の成立前、会計検査院が、「国の収入支出はすべて毎年会計検査院が検査する」と定めた憲法90条に秘密法の条文が反する、との懸念を示していた。
秘密法が憲法のさまざまな規定と衝突する危険性は、当時の国会審議でも議論の中心だった。憲法との整合性について、国会での掘り下げた審議を改めて求めたい。
検査院は内閣から独立し、権限を行使する。会計検査院法は「帳簿、書類その他の資料の提出」に応じるよう行政機関に求める。
だが、秘密法では「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがある」時に、行政機関は秘密の提示を拒める。検査対象に特定秘密を含む文書が含まれる場合、必要な検査ができないと検査院は指摘した。
法案を所管する内閣官房は検査院が求めた法案修正に応じなかった。ただし、「秘密事項について検査院に提供を求められた場合、応じるように」との趣旨の通達を内閣官房が省庁に出すことで合意していた。
昨年12月10日の秘密法施行からきょうで1年たつが、いまだ通達は出ていない。憲法の重みに照らし、適正な会計検査に資する通達は早く出すべきだ。各省庁がそれに従うのは当然である。
戦前の旧会計検査院法では、軍事用物品や国家の機密費は会計検査の対象外とされた。戦費へのチェックが働かず、結果的に軍備拡大の一因になったとされる。
現行憲法では、国の収入支出の決算は「すべて」会計検査の対象とした。歴史を振り返れば、会計検査の独立性と、自由な検査を保証することの重要性は明らかだ。決して軽視してはならない。
秘密法をめぐっては、運用状況を審査する衆参の情報監視審査会が、行政機関に特定秘密の提出を要求できる。だが、強制力がないため、行政機関側は「安全保障への著しい支障」を理由に拒むことが可能だ。これは国会を国権の最高機関と位置づけた憲法に反しないか。そうした指摘が根強くあった。
また、特定秘密の取得によって刑事裁判になった場合、法廷で特定秘密の中身が明らかにされない可能性が強い。防御権など憲法で保障された「被告の権利」が守られないのではないかとの疑問も出ていた。
安全保障関連法は9月、憲法学者の多くが違憲と指摘する中で、採決が強行された。安倍政権は憲法を尊重する姿勢に欠けるのではないか、との批判が出た。会計検査院の問題は、憲法に対する政権の対応を改めて問うている。