ワタミ謝罪 ブラック根絶の一歩に - 朝日新聞(2015年12月10日)

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過酷な労働を強いる「ブラック企業」と批判を浴びてきたワタミが、7年前に起きた過労自殺の裁判で、責任を認めて謝罪し、和解した。
亡くなった女性(当時26)の両親に慰謝料など1億3千万円超の損害賠償を支払うだけでなく、ほかの社員らにも未払いの残業代などを支払う。創業者の渡辺美樹参院議員は「もっとも重い責任は、私にある」と、全面的に非を認めた。
大学を卒業して居酒屋「和民」で働いていた女性は、連日の長時間勤務で残業が月140時間を超えた。「どうか助けて下さい」と手帳に書き残し、入社2カ月で自ら命を絶った。
12年に労災と認められたが、その後も会社側は遺族の望む面談や謝罪を拒み、裁判で「法的責任はない」と争ってきた。一転して非を認めたのは、訴訟が同社の経営にも影を落としたことが大きい。
長時間労働や賃金の未払い、ハラスメントなど、劣悪な労働環境で若者を酷使するような会社は、厳しい批判にさらされ、存立自体が危うくなる。
ワタミの教訓を多くの経営者は胸に刻むべきだ。
ワタミの例は「氷山の一角」に過ぎない。厚生労働省が13年、「若者の使い捨てが疑われる企業」を重点的に調べたところ、調査した約5千事業所の82%で、違法残業や賃金不払いなどの法令違反があった。
うつなど心の病で労災認定された人は昨年度497人、うち自殺や自殺未遂をした人は99人で、いずれも過去最多だった。
問題企業に対する指導・監督の強化は急務だ。だが、「労働Gメン」と呼ばれる労働基準監督官は、欧州などと比べて少ないのが実情だ。体制の強化も今後考えねばなるまい。
働く側が自ら身を守ることも大切だ。労働時間や賃金のことなど労働法の基礎を知ることは欠かせない。大阪などでは、NPOと連携した高校生向け「ブラック企業対処法」の出前授業もある。これから就職する学生らに向けた、教育現場でのそんな取り組みも広げたい。
そもそも日本では労使合意さえあれば長時間労働ができるしくみになっている。例えばEU諸国では仕事が終わってから次の仕事を始めるまでに最低11時間の休息を義務づけている。
そうした「インターバル規制」や時間外も含めた労働時間の上限規制も、議論を進める時期ではないか。
ブラック企業」を根絶し、働く人の命と健康を守る。今回の和解をその第一歩にしたい。