翁長県政1年 「自治と基地」重い問い - 東京新聞(2015年12月10日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015121002000131.html
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翁長雄志沖縄県知事が就任してきょうで一年。米軍基地新設をめぐる安倍政権との攻防は激しさを増している。地方自治体は基地受け入れの是非を自己決定できないのか。翁長氏の問い掛けは重い。
米軍普天間飛行場宜野湾市)の名護市辺野古沿岸部への「県内移設」をめぐる訴訟が先週始まった。埋め立て承認を取り消した翁長知事の処分は違法だとして、国土交通相が知事に代わって取り消し処分を撤回する「代執行」を認めるよう、国が求めたものだ。
翁長氏は意見陳述で「沖縄県にのみ負担を強いる今の日米安保体制は正常といえるのか。国民の全てに問い掛けたい」と述べた。
裁判で直接問われるのは、前知事の埋め立て承認や翁長氏の取り消し処分の是非であり、十分な審理が行われるべきではある。
同時に、翁長氏がなぜ取り消しに至ったのかという背景からも目を背けてはならない。
国土面積の1%に満たない沖縄県に、在日米軍専用施設の74%が集中し、訓練に伴う騒音や事故、米兵による事件、戦争に加担するという心理的圧迫など、県民は過重な基地負担を強いられている。
にもかかわらず、新たな米軍基地を県内に建設することは押し付けではないのか。翁長氏が提起した問題を裁判所だけでなく、すべての国民が深く考えるべきだ。
また、翁長氏は「日本に、本当に地方自治や民主主義は存在するのか」とも問い掛けた。
地方自治法は、防衛など「国際社会における国家としての存立にかかわる事務」は国の役割と定めるが、これは、自治体は口出しするなということではあるまい。
自治体と国との関係は二〇〇〇年の地方分権一括法施行で、従来の「上下・主従」から「対等・協力」へと大きく転換した。住民の平穏な暮らしを守り、自然環境を保護する観点から、自治体がその権限を行使するのは当然だ。
安倍政権は選挙で繰り返し示された民意を無視して「県内移設」を強引に進め、反対する名護市の頭越しで辺野古周辺三地区に補助金を直接交付する、という。
地域を分断し、憲法に定められた地方自治や民主主義に対する重大な挑戦でもある。看過することは到底できない。
普天間飛行場の「移設」問題は、在日米軍基地の負担に加え、地方自治の在り方をも問うている。沖縄県以外に住む私たちにもかかわる重大な問題提起である。