(筆洗)『家栽の人』は、すごい。 - 東京新聞(2015年11月28日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015112802000147.html
http://megalodon.jp/2015-1128-1055-14/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015112802000147.html

家栽の人』は、すごい。家裁の人つまり家庭裁判所の職員から、そう聞いたことがある。一九八七年から連載された家裁を舞台にしたマンガだ。
主人公の桑田判事は植物を愛し、家庭のありように苦しみ罪を犯した少年をこう諭す。「木はどこにも、逃げて行けないでしょう」「だからとても、きれいなんじゃないかな」。だから、家「栽」の人。
ほんわかした作風だが、生半可な取材では迫れぬ少年審判の実態が鮮やかに描かれている。ゆえに家裁の人たちをも魅了したのだが、実はほとんど想像の産物だったそうだ。
原作者の毛利甚八さんは、最高裁に取材を申し入れたが拒まれた。ならばと、「審判は懇切に和やかに、少年の内省を促すものとしなければならない」との少年法の理念をひたむきに追う判事を描いたという。
作品は反響を呼び、毛利さんは法曹界に多くの知己を得たが、家裁の実態を聞くうち、自己嫌悪に陥ったそうだ。現実に桑田のような判事はいない。自分が理想像を描くことで実相を見えにくくしているのではないかと。
苦悩の中で連載を終えた毛利さんだったが、やがて、『家栽の人』に胸を打たれ法律家を目指した多くの若者の存在を知る。「桑田判事の思想が現実の裁判所で生きている」。先週五十七歳で逝った毛利さんは遺著『「家栽の人」から君への遺言』で、そんな思いを書き残している。

少年法
第1章 総則
第1条(この法律の目的)
この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して正確の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年及び少年の福祉を害する成人の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。

関連サイト
家栽の人」から君への遺言〜それでも僕は犯罪加害者を「悪」と断罪しない - 現代ビジネス(2015年11月24日)
http://d.hatena.ne.jp/kodomo-hou21/20151126#p16