差別、悩み、希望 声伝える 精神障害抱え、働く人々を映画に - 東京新聞(2015年11月25日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201511/CK2015112502000232.html
http://megalodon.jp/2015-1126-1101-36/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201511/CK2015112502000232.html

統合失調症などの精神障害がある人たちが、創作や仕事に向き合う姿や、インタビューで構成するドキュメンタリー映画「あい 精神障害と向き合って」が完成した。舞台は東京・世田谷の作業所やレストラン。カメラの前で話すことに強い葛藤があった人たちが、生きにくさや悩み、生活の中で感じる喜びや希望を飾らない言葉で語る。二年半にわたり、メンバーと交流してきた宮崎信恵監督(73)は「出演者たちが撮影を通じて自分と向き合い、自らを肯定する感情が豊かになってきたことがうれしい」と話す。 (小林由比)
出演するのは、藍染めやアート制作を行う「藍工房」とフレンチレストラン「アンシェーヌ藍」に通う人たち。いずれも同じ世田谷区内の社会福祉法人が運営し、精神と知的の障害者計約六十人が作業や接客に当たっている。
生き生きと働くメンバーだが、インタビューでは「大勢の人がいる前で『おまえ病院に行けよ』と言われたりネタにされたり…」「退院すること自体が大変。親きょうだいの受け入れ態勢が整っていないから」と、十人以上が以前の職場などでの苦しい体験を振り返る。
映像制作会社「ピース・クリエイト」(江東区)代表の宮崎さんは、これまでも知的障害や発達障害の子どもたちを見つめる作品を手掛けてきた。だが精神障害の人たちと向き合ったのは初めて。知人の紹介で撮影を始めたものの、最初の一年ほどはインタビューに応じてもらえなかった。
どういう映画にしたいかを全員と話し合った。「生の声を聞き、日常を見てほしい」という宮崎さんに対し、「どんなに意義を理解しても、これ以上自分を苦しめたくない」と話す人もいた。宮崎さんは「彼ら、彼女たちがそれだけ周囲の偏見や差別に苦しんできたのだとあらためて感じた」と言う。

だが、宮崎さんの思いに応え、撮影に協力してくれる人も。レストランで働く栗本京子さん(45)は「仕事場などを撮影してもらったのを見て、私もはつらつと働けているんだな、物腰柔らかく接しているんだなと発見できた。社会の一員なんだなあ、とうれしかった」と明かす。
二十代で統合失調症を発病し、入退院を繰り返した。今は一人で暮らしながらレストランで働く。「一度壊れてしまった自分をもう一度確認しながらつくっている。その成長の記録になったのかな」
厚生労働省の二〇一一年の統計では、精神疾患を持つ人は三百二十万人。国は入院中心から、地域で暮らしながら治療できる社会づくりを目指す。宮崎さんは撮影を通し、「心のゆらぎを抱える人たちが、工房やレストランを通して社会と結び付くことで安定を取り戻している。そういう場が、地域の中にたくさんあることが必要だ」と感じている。
映画の完成披露上映会が十二月一日、世田谷区の北沢タウンホールで開かれる。午前十時半、午後二時半、同七時からの三回。大人九百九十九円。障害者と中高生は五百円。問い合わせはピース・クリエイト=電話03(3699)4883=へ。