犯罪者の子どう支える 阿部恭子さんに聞く - 朝日新聞(2015年3月26日)

http://www.asahi.com/articles/CMTW1503260400002.html
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■ワールド・オープン・ハート理事長
犯罪加害者の家族を支える活動にとりくんできた仙台市NPO法人「ワールド・オープン・ハート(WOH)」が、加害者の子どもの支援を考えるシンポジウムを28日に開く。親が殺人や性犯罪などを引き起こしたため、学校でも冷たい目にさらされ、孤立し、苦しむ子どもたち。WOH理事長の阿部恭子さん(37)に聞いた。
 ――罪を犯した人の子どもは、どんな状況に置かれていますか。
「主に父親の逮捕や服役で世帯の柱がいなくなり、生活は困窮し、居場所も追われます。学校も守ってくれません。東北地方で起きた殺人事件で、容疑者の子どもが通う小学校にマスコミが殺到し、教頭が母親に転校を迫ったことがありました。子どもには何の罪もないはずなのに」
「世間の目やいじめ以上に、親族のまなざしに傷ついています。特に母方の祖父母から『ひどいお父さんだ』などと言われた例を聞きます。『犯罪者の子』という意識が心に刻まれ、アイデンティティーに悩むようになる」
 ――どんな支援が必要でしょう。
「親が刑務所に面会に行くときの託児や、学習支援の民間団体のネットワークを築こうとしています。子ども支援団体にも呼びかけましたが、犯罪がらみということで敬遠するところもある。刑務所の矯正担当者と勉強会を始めたほか、児童相談所教育委員会との連携も考えています。人権教育の中に、加害者家族の人権も含めるべきです」
 ――発足から6年余り。運動は広がりましたか。
「加害者家族の支援活動を行うのは日本ではここだけ。全国から500件以上の相談が寄せられました」
「昨年春までで分析したところ、88%が『自殺を考える』と話していた。ほかの相談内容は▽事件がどう進み、家族はどう関わればいいか77%▽学校や職場への対応74%▽被害者への謝罪68%など。身内の結婚が破談になった人や進学・就職を断念した人は、それぞれ4割近く。家族の人生も大きな影響を受けます」
 ――04年には犯罪被害者等基本法ができました。
「被害者の支援はまだまだ不十分で、そちらが大事なのは言うまでもありません。加害者側の支援に否定的な意見があるのも、しかたない。声高に主張しても世の中は変わりません。一人ひとりに話をして、理解を広げるしかない」
 ――欧米では、慈善団体や宗教団体が加害者家族支援に取り組んでいます。
「日本は外国に比べ凶悪事件は少ない。平和だからこそ、加害者家族の存在が見えにくいのかもしれません。でも私たちが相談を受ける中には、事件前は社会的地位のある仕事を持っていた家庭が少なくない。誰もが何かのはずみで犯罪者の身内になりえます。追い詰められている加害者家族がいるということを、社会にまず知ってほしい」(聞き手・石橋英昭)