97歳画家・堀文子さん新作展 60年ぶり発見 幻の名画も - 東京新聞(2015年11月10日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201511/CK2015111002000265.html
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画業八十年、九十七歳の今も創作を続ける日本画家堀文子(ふみこ)さん=神奈川県大磯町=の新作展が十二日から、東京・銀座のナカジマアートで開かれる。この一年に描いた新作十三点に加え、別の絵の裏から約六十年ぶりに発見された「海辺」も特別展示される。 (樋口薫)
堀さんは一九一八年、東京生まれ。関東大震災二・二六事件を体験し、「戦争に利用されない道へ」と画家を志した。女子美術専門学校(現女子美術大学)を卒業。戦後は同じ場所での生活に慣れて感性が鈍らないよう、軽井沢、イタリアなどに転居を繰り返してきた。
現在は大磯町にアトリエを構え、月一作ほどのペースで制作を続ける。毎年秋に新作展を開いており、今年のノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智さん、女優の黒柳徹子さんら愛好者は多い。
新作のうち「落日の図」は、堀さんが「一生の終わりを迎える自らの心境」と語る一枚。一度塗ると修正の難しい日本画は、まず下図(下書き)を制作するのが一般的だが、この作品は「初めて下図を一切なしに描いた」という。
「雑草たち」は、アトリエの庭の名もなき草花がモチーフ。堀さんは「誰かに踏んづけられても強く生き、小さな花を咲かせる雑草の根性のすさまじさを尊敬しています」と語る。
五六年制作の「海辺」は今年春、約六十年ぶりに見つかった。兵庫県立美術館の展覧会に出展した作品の額縁の補修中、絵の裏側に別の作品が存在することが判明。現れた「海辺」は、存在は知られていたが行方不明の一枚だった。
デフォルメされた人々が浜辺で遊ぶ姿が色鮮やかに描かれた作品で、ナカジマアート代表の中島良成さんは「非常に珍しい画風」と驚いたという。調べると、「海辺」発表の前年、堀さんは子ども向けの憲法解説書「わたくしたちの憲法」(有斐閣)で挿絵を担当しており、そこで用いた切り紙と非常に似ていた。
中島さんは「解説書の挿絵は、憲法の内容に合わせて人々と憲法の関わりを切り紙で描いた、非常に手間のかかった仕事。その構想が『海辺』につながったのだろう」と解説する。
堀さんは「過去の仕事を振り返らない」と多くを語らないが、九条改定の動きに警鐘を鳴らしており、憲法に関する論議が強まる中でこの絵が見つかったことから特別展示が決まった。
展覧会は十二月二日まで。会期中無休、入場無料。問い合わせはナカジマアート=電03(3574)6008=へ。