BPO意見書 介入への批判は当然だ - 毎日新聞(2015年11月10日)

http://mainichi.jp/opinion/news/20151110k0000m070129000c.html
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NHK「クローズアップ現代」のやらせ疑惑問題をめぐり、高市早苗総務相がNHKを厳重注意したことや、自民党がNHK幹部を呼び説明させたことを、放送倫理・番組向上機構BPO)の放送倫理検証委員会(検証委)が厳しく批判した。
放送法の本旨に照らせば、政府・与党の介入に対する批判は当然だ。
意見書においてBPOは、高市総務相の対応を「政府が放送法の規定に依拠して個別番組の内容に介入することは許されない」と批判した。NHKが再発防止策を検討していたにもかかわらず注意したことについて、「放送法が保障する『自律』を侵害する行為」との認識を示した。
また自民党情報通信戦略調査会がNHKの幹部を呼んで、番組の説明をさせたことも「放送の自由とこれを支える自律に対する政権党による圧力そのもの」と断じた。
BPOは、放送の問題を自主的に解決するため、NHKと民放が設立した第三者機関である。検証委は、民放バラエティー番組の捏造(ねつぞう)問題で番組に対する国の規制強化の動きが強まったことから、自浄作用の確立を目的に2007年に新設された。
自民党には、BPOに対する政府の関与を探る動きがある。総務相自民党への指摘は、それをけん制しつつ第三者機関としての役割を果たそうとしたとみることもできる。
放送法の第1条は、表現の自由を確保し、民主主義の発達に資するとの目的をうたう。そのうえで第3条は、放送番組は法律に定める権限がなければ何人からも干渉され、規律されないと編成の自由を保障する。誤った報道をした場合などに放送局が自ら訂正するのは当然としても、その運営は自律が原則である。
高市総務相は批判を受け、政治的公平などを定めた放送法の番組準則に違反したか否かは、まず放送局が判断すべきだが、最終判断は総務相が行うと反論した。しかし検証委の設置以来、政府は放送の自律を尊重してきた経緯がある。社会的な影響力が大きく、電波の周波数には限りがあるという放送メディアの特性はあるにしても、政権の関与は抑制的でなければならない。
一方、BPOは放送に携わる者が、干渉や圧力に対する毅然(きぜん)とした姿勢を堅持して、行動することも求めた。
昨年5月に放送した「出家詐欺」の特集について、NHKは今年4月「過剰演出があった」とする調査報告書をまとめた。それを疑問視したBPOが、「重大な放送倫理違反があった」と指摘した意味は大きい。
放送の自由には、もちろん責任を伴う。視聴者の感覚とはなお距離があるやらせの捉え方の再考を含め、NHKは重い課題を背負った。