NHK総合テレビ『クローズアップ現代』“出家詐欺”報道に関する意見 - 放送倫理検証委員会(2015年11月6日)

http://www.bpo.gr.jp/wordpress/wp-content/themes/codex/pdf/kensyo/determination/2015/23/dec/0.pdf

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Ⅵ おわりに

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2015年4月28日、総務大臣はNHKに対し、『クロ現』について文書による厳重注意をした。番組内容を問題として行われた総務省の文書での厳重注意は2009年以来であり、総務大臣名では2007年以来である。NHKが調査報告書を公表した当日、わずか数時間後に出された点でも異例であった。
総務大臣は、厳重注意の理由は「事実に基づかない報道や自らの番組基準に抵触する放送が行われ」たことであり、厳重注意の根拠は、放送法の「報道は事実をまげないですること。」(第4条第1項3号)と「放送事業者は、放送番組の種別及び放送の対象とする者に応じて放送番組の編集の基準を定め、これに従つて放送番組の編集をしなければならない。」(第5条第1項)との規定だとする。
しかし、これらの条項は、放送事業者が自らを律するための「倫理規範」であり、総務大臣が個々の放送番組の内容に介入する根拠ではない。
放送による表現の自由憲法第21条によって保障され、放送法は、さらに「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。」(第1条2号)という原則を定めている。
しばしば誤解されるところであるが、ここに言う「放送の不偏不党」「真実」や「自律」は、放送事業者や番組制作者に課せられた「義務」ではない。これらの原則を守るよう求められているのは、政府などの公権力である。放送は電波を使用し、電波の公平且つ能率的な利用を確保するためには政府による調整が避けられない。そのため、電波法は政府に放送免許付与権限や監督権限を与えているが、これらの権限は、ともすれば放送の内容に対する政府の干渉のために濫用されかねない。そこで、放送法第1条2号は、その時々の政府がその政治的な立場から放送に介入することを防ぐために「放送の不偏不党」を保障し、また、時の政府などが「真実」を曲げるよう圧力をかけるのを封じるために「真実」を保障し、さらに、政府などによる放送内容への規制や干渉を排除するための「自律」を保障しているのである。これは、放送法第1条2号が、これらの手段を「保障することによつて」、「放送による表現の自由を確保すること」という目的を達成するとしていることからも明らかである。