(私説・論説室から)夢を見る国見ない国 - 東京新聞(2015年11月4日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2015110402000133.html
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戦争の「過去の克服」、脱原発、さらには難民の積極的受け入れなどで国際的評判を高めるドイツに対し、独善的などとの批判も相次いでいる。ドイツ通や、ドイツに長く住んだ人たちからのものも少なくない。
共感できる部分もある。日本人に比べ、ドイツ人は繊細でも丁寧でもなく傲慢(ごうまん)だ。こちらがドイツについて学んでいるほど日本のことを知りもしないのに批判はする。だから、「ドイツを見習え」的な論調が嫌いだった。
戦後七十年を経た。ドイツと周辺国は、戦火を繰り返さないことを誓い、欧州連合(EU)という運命共同体をつくり上げた。
脱原発は実現性への疑問も指摘されるが、東京電力福島第一原発事故の深刻さを見れば、人の手に負えないリスクを除去しようとするのは、まっとうな理屈だ。
メルケル首相が表明した難民受け入れ方針は異論を巻き起こし、難民が通過する周辺国にも混乱を広げる。しかし、その「人道最優先」という大義には、障害を乗り越えても実現させるべきだとの説得力がある。
「夢」みたいな理念を目指し、猪突(ちょとつ)猛進する。周囲の迷惑を考えず、デリカシーにも欠ける。でも、夢を掲げ、実現しようとする政治には希望がある。夢を描かぬ政治は何も変えない。理不尽な現実と既得権益が固定化する。周辺国とのいざこざも、米軍基地も原発もなくならない。 (熊倉逸男)