(筆洗)八百屋の長兵衛さんは、考えてみれば、気の毒な人である - 東京新聞(2015年10月30日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015103002000138.html
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八百屋の長兵衛さんは、考えてみれば、気の毒な人である。彼がしたことと言えば、いつも碁盤を囲む相手にわざと勝たせてやり、勝敗が五分五分になるようにしていただけ。
それなのに、彼の通称「八百長」は、勝負事でのなれ合いや不正を表す言葉になってしまったのだから、長兵衛さんは「ずるして勝ったわけじゃねえのに…」と、草葉の陰でぼやいていよう。
さて、沖縄の辺野古埋め立て工事をめぐる国のふるまいを何と形容すべきか。防衛省は工事が適切に行われるよう有識者による環境監視等委員会を設置したが、委員の中には、請け負った業者から多額の寄付を受け取った人がいるという。
もう一つ。沖縄県知事は、工事には自然破壊の恐れなど多くの問題があるとして着工に待ったをかけた。しかし、防衛省行政不服審査制度を使って「待ったはおかしい」と申し立てると、国土交通相はあっさりとその言い分を認めた。
行政不服審査制度は、権力の乱用で国民が泣き寝入りしなくてすむようにつくられた救済の仕組みだ。それを国の役所が使うこと自体おかしな話なのだが、防衛省国交相に裁きを求めたのだから、勝敗は分かりきっている。
行司役が力士から金一封をもらったり、力士が同門の力士の勝負の行司役を務めたり…。長兵衛さんにはまことに申し訳ないが、これはどう見ても「八百長」だろう。