(私説・論説室から)沈黙守るのか経済学者 - 東京新聞(2015年10月28日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2015102802000150.html
http://megalodon.jp/2015-1029-1044-41/www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2015102802000150.html

「暗黙の想定やまちがった想定を明らかにすることもできるし、あらゆる立場を絶えず批判的な検討にかけることもできる。これこそが社会科学者を含む知識人の果たすべき役割だ」−。経済学者トマ・ピケティ氏のベストセラー「21世紀の資本」の一節。同書には、経済学者はもっと社会に役立つ存在になるべきだとのメッセージが込められている。
消費税の10%引き上げと同時に軽減税率の導入がほぼ固まった。しかし、軽減税率の負の面を考えれば、税率15〜20%ならまだしも10%時点での導入には疑問だ。日本の経済学者の大多数も同様に「反対」のはずである。
なぜなら消費税の逆進性対策が出発点なのに、軽減税率は逆に「富裕層減税」が実態だからだ。値段の高い松阪牛や魚沼産コシヒカリなど高級食材を買う富裕層ほど恩恵が大きくなる。さらに軽減税率の対象に入れてもらおうと業界ぐるみの陳情が起き、選挙応援など政治利権を生むのも目に見えている。軽減税率のせいで他の税率は上がりやすいし、減収分は低所得者社会保障の費用負担増で賄う案が浮上、それこそ本末転倒である。
経済学者は確実に低所得者対策となる給付付き税額控除など優れた策を知っているのに、なぜ黙っているのか。安保法をめぐり憲法学者が声を上げ、世論を動かしたではないか。もっとも、こんな経済運営では増税はできないと見通しているなら立派だ。 (久原穏)