辺野古取り消し やむを得ない知事判断 - 毎日新聞(2015年10月14日)

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沖縄県の米軍普天間飛行場宜野湾市)の移設計画をめぐり、翁長雄志(おながたけし)知事が移設先の名護市辺野古の埋め立て承認を取り消した。国と県の対立は決定的となり、最終的に法廷闘争に持ち込まれる可能性が高まった。異常な事態であり、残念だ。
県は、前知事による埋め立て承認に「瑕疵(かし)があった」と主張し、国は「瑕疵はない」という。言い分は真っ向から食い違い、法的にどちらに理があるかは、まだ判断し難い。
だが、今回のことは、安倍政権が県の主張に耳を傾けず、移設を強行しようとした結果ではないか。県の取り消し判断はやむを得ないものと考える。
翁長氏は、記者会見で、今夏の1カ月間の政府と県の集中協議などを振り返って「内閣の姿勢として、沖縄県民に寄り添って問題を解決していきたいというものが薄い」と政府への不満を語った。
菅義偉官房長官は、県の取り消し決定について「日米合意以来、沖縄や政府の関係者が重ねてきた普天間の危険性除去に向けた努力を無視するものだ」と批判した。溝の深さを改めて見せつけられるようだった。
今回の取り消しにより、政府は埋め立て工事と前段のボーリング調査について、法律上の根拠を失う。
政府は対抗措置として、行政不服審査法に基づき国土交通相に対し不服審査請求をする予定だ。あわせて取り消し処分の一時執行停止も申し立てる。執行停止が認められれば、政府はボーリング調査を再開し、来月にも本格工事に着手する構えだ。
だが行政不服審査法は、行政に対して国民の権利を守るのが本来の趣旨だ。国が国に訴え、それを同じ国が判断することには違和感がある。
不服審査の結果が出るまでには数カ月かかるとされ、最終的には国か県のいずれかが結果を不服として提訴すると見られる。そこまでして辺野古に代替基地を造ったとしても、安定的に運用できないだろう。
翁長氏が知事に就任して10カ月。この間、安倍政権は辺野古移設計画を進めるにあたり、県の意向をくみ取ろうとする姿勢に乏しかった。一時期は、翁長氏と会おうともしなかった。
今回、県は、取り消しの通知書とともに、15ページにわたって理由を記した文書を政府側に提出した。そこには「普天間が他の都道府県に移転しても、沖縄には依然として米軍や自衛隊の基地があり、抑止力が許容できない程度にまで低下することはない」など、辺野古移設への疑問が列挙されている。
政府が今すべきは、強引に辺野古移設を進めることではなく、移設作業を中止し、これらの疑問にきちんと答えることではないだろうか。