これからどうなる安保法 (9)集団的自衛権行使 - 東京新聞(2015年10月11日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201510/CK2015101102000112.html
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安倍晋三首相が他国を武力で守る集団的自衛権行使の代表例としたのは、日本周辺の有事に際し、邦人輸送や弾道ミサイル迎撃にあたる米艦の防護だ。政権が「安全保障環境の変化」と強調する柱は中国の軍備拡張だが、偶発的衝突を除けば、中国が米軍に攻撃を仕掛けることは現実には想定しづらい。
集団的自衛権は、主に北朝鮮と米軍が衝突する朝鮮半島有事を想定している。では、どのような状況なら安全保障関連法に基づき、行使が可能となる「存立危機事態」と認定するのか。首相は「政府が総合的に判断する」などと繰り返した。「(敵国に)手の内をさらすことになる」(首相)と詳細な説明を拒否し、国民の生命に関わる「参戦」の具体的な状況は分からないままだ。
ただ国会審議では、その考え方の一端をのぞかせる答弁もあった。首相は「(弾道ミサイルを警戒する米艦への)攻撃が起こった段階では時間的に当然間に合わない」と指摘。半島有事が発生すれば、早期に事態認定する可能性に言及した。弾道ミサイル対処能力がない米艦や、邦人が乗っていない米艦でも防護する意向も示した。
存立危機事態の認定は、他国への攻撃でも「日本の存立と国民の生命が覆される明白な危険がある」ことが要件。だが政府の説明では、半島有事で日本周辺の米艦防護をするため、さまざまな状況で集団的自衛権の行使を想定している。
これまで半島有事では「周辺事態」を認定し、自衛隊は公海上での米軍への補給など「支援」にとどまることになっていた。だが安保法では、同じ状況なのに自衛隊武力行使に踏み切る可能性がある。
半島有事は幸いにも、朝鮮戦争(一九五三年休戦)以降、起きていない。平和憲法のもと、日本は韓国などと違い、米国の戦争に直接加わらず戦後七十年、武力行使はしていない。
だが憲法解釈の変更をへた安保法の成立で、武力行使は「自国が攻撃されたときのみ」から、「他国が攻撃されたときでも」可能に変わり、ハードルは大幅に下がった。政権の判断次第で「参戦」する可能性が、これまでより大きくなった。 (生島章弘)