わが街の図書館 地域の文化守りたい - 東京新聞(2015年10月10日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015101002000164.html
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民間参入が進む公立図書館の在り方が各地で議論を呼んでいる。新図書館計画をめぐる愛知県小牧市住民投票では「反対」が「賛成」を上回った。わが街の図書館には何が求められているのか。
小牧市住民投票では、レンタル大手TSUTAYA(ツタヤ)を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と連携した新図書館建設計画への賛否が問われた。反対56%、賛成44%となった投票結果に法的拘束力はないが、市側は計画の見直しを迫られることになった。
市の計画は、名鉄小牧駅前に官民連携による新図書館を建設し、中心市街地の活性化を図ろうというものだった。建設費は四十二億円。老朽化した現図書館の倍以上となる五十万冊を収容、カフェを設けて飲み物片手に読書できるようにする、などとしていた。
計画に反対する市民団体は「建設費が高すぎる」「駅前活性化に図書館を利用すべきではない」などと訴え、行政主導で走り始めた構想に疑問を投げ掛けていた。
小牧市が手本にした佐賀県武雄市図書館は、ツタヤ図書館の第一号として二〇一三年にオープンした。コーヒーチェーンのスターバックスが入るなど従来の公立図書館のイメージを一新して注目を集め、年間二十五万人だった利用者は四倍近くにまで増えた。
一方、古い実用書など一万冊の中古本を追加購入した指定管理者CCCの選書は「税金で運営する図書館にふさわしくない」との批判も招き、違法な業務委託契約だとする住民訴訟も起こされた。
ツタヤ図書館の第二号として今月一日に新装開館した神奈川県海老名市立中央図書館でも、不適切な選書が問題になった。
民間参入は、〇三年の地方自治法改正で導入された指定管理者制度が後押しした。日本図書館協会によると、全国三千二百余の市区町村立図書館のうち一割強が民間運営となっている。夜間開館など柔軟なサービス向上も図られてきたが、さて、わが街の図書館には何を求めるのか。
ツタヤの集客力は消費者の強い支持があればこそだが、納税者たる住民が街の図書館に求めるものは、にぎわいや流行をつくり出す力だけではないことを、住民投票の結果は物語っている。
公立図書館は、商業施設ではない。地域の文化を守り伝え、育てる拠点であることを忘れてはなるまい。わが街にふさわしい図書館の在り方を大いに議論したい。