(筆洗)そのオーストラリアの少年は裕福とはいえぬ家庭に育った。… -東京新聞(2015年10月9日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015100902000133.html
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そのオーストラリアの少年は裕福とはいえぬ家庭に育った。十二歳の時、胃がんで父親を亡くした。少年の生活は荒(すさ)んでいった。けんかや学校でのトラブル。母親は悩んだ。このままではいけない。
幸い、少年にはゴルフの才能があった。母親は決断した。全寮制高校とゴルフアカデミーに入学させた。高価な学費は家族の住んだ家を売って用意した。少年も決意した。週に三十二時間、練習に打ち込んだ。
別の日本の少年も、やはり小学校六年生の時に父親を胃がんで失った。母親は中学校の非常勤講師として復職し、この少年を含む三人の子を育てた。亡くなった父親は少年がプロ野球選手になることを望んでいた。その望みのため少年にとにかく食べさせた。夢を追わせたかった。
一人目の少年はプロゴルファーのジェーソン・デー選手(27)である。全米プロ選手権など今年、米ツアー五勝を挙げ、最高のシーズンを終えた。全米プロの勝利に高校のコーチでもあったキャディーと抱き合い、号泣していた場面が忘れられぬ。
もう一人の日本の少年は埼玉西武ライオンズ秋山翔吾選手(27)。シーズン二百十六安打の新記録を達成した。長いプロ野球の歴史の中で誰よりも一年間で安打を放った選手になった。
同じ世代、境遇の似た二人の「少年」が努力と母の支えで大きな花を咲かせた。励みとなる少年少女もきっといる。