(小林節氏の 『一刀両断』)「学者は神学論争」の意味 - 大阪日日新聞(2015年10月6日)

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共産党立憲主義の回復の一点で共闘(選挙協力)して「国民連合政府」を樹立しようと提案した。
私は賛成であるが、他の野党からの反応はさまざまである。中には「基本政策が一致していない共産党と連立することには無理がある」という消極的な反応もあった。しかし、そういう姿勢は「野党ボケ」としか評しようがない。
まず、小選挙区中心の今の選挙制度の下でそれぞれに政策が違うから別々の党である野党がバラバラで選挙を戦った場合、たとえ野党の得票の合計が総投票数の4割であっても、合計で3割を獲得した自・公に、7割の議席を奪われ、絶対安定政権を樹立されてしまう。そして、その数の力で今回の立憲主義の否定が行われた。
まず、憲法9条の明文とそれを根拠に自民党政権自身が確立した解釈に明白に反する、自衛隊の海外派兵を可能にする法律を制定した。これは法律という下位法で憲法という最上位法を無視する暴挙で、権力者の憲法尊重擁護義務(99条)に違反している。
加えて、今回の法案審議の過程で、与野党間の論争は、見ていて気味が悪い程に、重要な論点についてことごとくかみ合っていなかった。これは、明らかに与党が論争を意図的に回避した結果であった。それは議会制民主主義の否定である。国民の代表である議員たちが論争を重ねることで議論が深まり、妥協調整を行って政策を形成する場が議会である。その不可欠な議論を与党が頭から否定し自ら提出した法案を数の力で通してしまった今回の事態は、議会制の否定以外の何ものでもない。
このような権力による憲法の全面否定に直面して、まず何よりも憲法(特に議会制度)が機能する状態を回復しよう…という共産党の提案に対して、通常のレベルでの「政策が違うから」と斜に構えている他の野党は一体何を考えているのか、理解に苦しむ。
それに、その人士がそれほどに重要だと考えている「政策」なるものを、少数野党の立場のままでどうやって実現しようとしているのか? 実に無責任である。
真に「政策」を追求するつもりがあるならば、今回は、共産党の提案に同意・協力して、まず何よりも議会の機能を復活させた上で、そこで議論を重ねて自らの信ずる政策の実現を目指すことこそが、まさに、憲政の常道であろう。(慶大名誉教授・弁護士)