改正派遣法施行 これで経済良くなるか- 東京新聞(2015年9月30日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015093002000149.html
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三十日施行の改正労働者派遣法は、これまで限定的だった派遣労働が人を入れ替えればいくらでも使えるようになる「悪(あ)しき転換」である。働く人の不安定さは一段と増す。再改正が必要だ。
改正法は残業代ゼロ法案や解雇の金銭解決など安倍政権が進めようとしている経営者寄りの政策と同根といえる。働く人を守る労働規制を緩めて、企業のコスト削減や利益増大を最優先するからだ。
改正法は二度廃案、三度目の国会提出で十一日に成立したが、施行までの周知期間はほとんどない。労働者保護などを求める三十九項目もの付帯決議が付いたことからも改正法の危うさは明らかだ。
改正法の柱は大きく三つある。これまで期間の制限がなかった通訳やデザインなど専門二十六業務も原則三年となる。これらの仕事に就いていた人は派遣全体(約百二十万人)の四割に上る。派遣会社の無期雇用にならないと続けたくても三年までの勤務となり、多くの雇い止めが出る懸念がある。
二つめは、企業は人を替えれば同じ業務をずっと派遣社員の活用でできるようになる。労働組合との協議を義務付けたが、合意ではないので歯止めにはなり得ない。
三つめは、派遣会社をすべて許可制にし、計画的な教育訓練や「雇用安定措置」を派遣会社に義務付けた。派遣期間が終了した派遣社員を企業に直接雇用するよう依頼させたりする。ただ、派遣会社の努力任せのような規定だけに実効性があるのか甚だ疑問だ。
どれも働く人の雇用を不安定化させるものばかりだが、最大の問題は労働者派遣法の根幹が変更されることである。職業安定法が禁じていた派遣を、専門業務に限って解禁する労働者派遣法が制定されたのは一九八五年。通訳など専門業務をこなす技能は企業が外部から調達するニーズを迫られていたことと、専門業務は正社員の仕事を奪うこと(常用代替)にはならないとの原則に合致したためだ。
その後、九九年の非専門業務の解禁など規制緩和は続いたが「常用代替の防止」という一線は守ってきた。改正法はこの原則を崩すものだ。企業が正社員を派遣社員に置き換え人件費を抑制することは目に見えている。
企業ばかりが利益を上げても日本経済が良くならないことは現状を見れば明らかだ。不安定・低賃金の派遣労働を増やす改正法は出生率引き上げ目標にも逆行する。ただちに軌道修正すべきである。