主権者教育指針 着実に実践を進めよう - 毎日新聞(2015年9月30日)

http://mainichi.jp/opinion/news/20150930k0000m070164000c.html
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選挙権年齢が18歳以上に引き下げられることを踏まえ、政府は有権者としての意識を高める主権者教育の指針を作成した。学校がこれまで自主的に取り組んできた政策討論や模擬選挙などの積極活用を求め、政治的中立の維持に留意するよう教員側に促している。
現実の政治課題をテーマとした討論など、「実践的な教育活動」の重視を打ち出した点は評価できる。政治的中立を強調しすぎることで、教育現場が萎縮することがないような運用を求めたい。
改正公職選挙法の成立に伴い、来夏の参院選から「18歳選挙権」が実現し、現在の高校2年生の一部も3年の在学時に投票が可能になる。このため文部科学、総務両省は生徒用の副教材と、教員用の指導資料の作成を急いでいた。
生徒向けに「サマータイム」を例に討論の実施例を説明するなど、選挙の仕組みなどの知識にとどまらず、選挙への関心や複眼的な思考を養おうとする姿勢が全体的に感じられる。政策討論や、政党・候補名をあげた模擬選挙にはこれまで多くの学校長や教育委員会が腰が引けていただけに、前進だ。
一方で、教員用の資料では政治的中立の維持に多くの分量が割かれた。現実の政治課題をめぐり生徒が討論した場合、教員が特定の見解を「自分の考え」として述べることは避けるよう求めている。
教員が主権者教育にあたり特定の政党や候補を支援したり、個別テーマで生徒に一方的に意見を押しつけたりすることは中立性を損なう。ただ、教員に政策の中身に関する論評まで認めない風潮が広がると「偏向教育」との批判をおそれ、多くの学校が討論などの活動を手控えてしまう懸念がある。自民党には政治的中立の維持を厳格化するため教員への罰則強化を求める議論もあるが、過剰に規制すべきではあるまい。
模擬投票をめぐっては今夏、山口県の高校が安保関連法案をテーマとしてグループ討論の「説得力」を問う形で実施したことが県議会で追及され、県教委が陳謝したケースもある。教育方法について政府や教委がいちいち妥当かどうかを判断するのは現実的でない。新聞の活用方法や模擬投票結果の公表の仕方などについて、ある程度具体的な共通認識が形成されることが望ましい。
若者の低投票率傾向が目立つ中、主権者教育が軌道に乗るためには、生徒も参加した活動が占める役割は大きい。学校や教員は着実に実践を進めるべきだ。教育現場で生徒が「生きた政治」にふれ、議論しあうことへの社会的なコンセンサスの形成も同時に重要である。