(筆洗)それを聞けば、時代の雰囲気がなんとなく伝わってくる流行歌がある - 東京新聞(2015年9月20日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015092002000123.html
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それを聞けば、時代の雰囲気がなんとなく伝わってくる流行歌がある。終戦直後でいえば、「リンゴの唄」や「東京ブギウギ」であろう。
一九六〇年安保を振り返る映像などを見ると西田佐知子さんの「アカシアの雨がやむとき」がよく使われている。<アカシアの雨にうたれて このまま死んでしまいたい>。絶望的な歌詞を見れば、失恋の歌だが、運動に敗れた若者の心情とぴたりと重なったのだろう。
坂本九さんの「上を向いて歩こう」(作詞・永六輔、作曲・中村八大)。世界的にもヒットした、この曲も六〇年安保が背景にある。涙がこぼれぬように上を向こう。その涙とは挫折の涙である。
反対派、賛成派にも長い一週間だった。安保法が昨日の未明に成立した。涙がこぼれぬよう上を向きたい人もいる。最も心配しているのは国民同士の対立である。
一連の経過を見るに、賛成、反対派の双方が強固な砦(とりで)を築き、そこに閉じこもっていた印象がある。政府のやり方に起因するのであろうが、お互いに話し合いで第二、第三の道を模索する空気はなく、自分とは異なる意見は愚かな意見と退け、傷つけ合っていなかったか。
結果、生まれるのは権力側には都合の良い国民の分断である。自分の横にある異論にも必ず理由、事情がある。耳を傾けねば、説得や打開はあるまい。必要な歌は「横を向いて歩こう」かもしれぬ。