言わねばならないこと <特別編>安全 確保されるのか 「紛争解決請負人」 伊勢崎賢治氏 - 東京新聞(2015年9月18日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/himitsuhogo/iwaneba/list/CK2015091802000202.html
http://megalodon.jp/2015-0918-1040-21/www.tokyo-np.co.jp/article/feature/himitsuhogo/iwaneba/list/CK2015091802000202.html

自衛隊のリスク増える
安全保障法制の一番の目的は、日本の施政下に限られている日米同盟の範囲を世界中に広げ、「普通」の軍事同盟にすることだ。
米国とフィリピン、米国とオーストラリアの軍事同盟は、「集団的自衛権」ではなく「集団防衛」だ。自国に対する脅威がなくても、一国への攻撃を集団への攻撃とみなす。
これに日米同盟を加え、太平洋地域に北大西洋条約機構NATO)のような軍事同盟をつくり、中国の進出に備えたいのだろう。
テロ対策特別措置法に基づき(海上自衛隊が、アフガニスタンのテロ掃討作戦を行う米英艦船などに給油する)「ガソリンスタンド」をやった。これからは恒久法の国際平和支援法で「(いつでも使える)コンビニエンスストア」にしようとしている。日米同盟の底上げだ。
「底上げ」には、リスクが伴う。至近距離で陸上の敵と向き合う国連平和維持活動(PKO)の現場が、一番危ない。
PKOの概念が変わっている。一九九四年にルワンダで起きた住民虐殺に対し、PKOは中立性を保って何もできなかった。その後、停戦監視だけでなく住民保護も任務になっている。派遣先で停戦が破られたとしても、自衛隊は住民を見捨てて日本に戻ってこられない。
そうした現場では、戦闘員と住民の区別がつきにくい。もし自衛隊員が誤って住民を傷つけてしまったら、国際人道法違反とみなされる。通常は、各国が現地の法律よりも厳しい軍法で裁くことで怒りをなだめようとする。自衛隊には軍法がない。現地の怒りを買い、日本の外交的な地位は失墜する。
自衛隊員は個人の犯罪として裁かれる。そもそも憲法九条があるから、日本は紛争の当事者や交戦主体になれない。根本的な法的地位を国民に問わないまま、自衛隊を海外に送ってはならない。
対テロ戦の現場で日本の存在感が増せば、過激派組織「イスラム国」(IS)のようなグループに、日本を攻撃する口実を与えることになる。彼らが「日本を攻撃するのは、米国を攻撃するのと同じだ」と考えた瞬間から、日本は敵になる。そうなれば狙われるのは原発だ。
日米同盟は否定しない。しかし、日本のイメージ失墜をどう食い止めるかを考えなければならない。
<いせざき・けんじ> 1957年生まれ。東京外語大大学院教授。国連PKOの幹部として、東ティモールで暫定政府の知事、シエラレオネでは武装解除を担当した。日本政府特別代表としてアフガニスタン武装解除も指揮し「紛争解決請負人」とも呼ばれる。