司法試験漏えい 問題を見直す機会に - 東京新聞(2015年9月11日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015091102000130.html
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司法試験の問題漏えい事件は、大学教員の倫理観に依存している制度の危うさを露呈した。法曹人を選抜する試験で不正が起きるのは論外だ。再発防止のための具体策を緊急に検討せねばならない。
受験生の女性の得点は、この論文試験ではほぼ満点だったとされる。あまりに完成度が高いことが不審視された。問題を知っていなければ、これほどの答案を書くのが困難なほどだったという。
「司法試験考査委員」を務めた明治大法科大学院の青柳幸一教授を国家公務員法守秘義務)違反の疑いで法務省が告発したのも当然だ。既に青柳教授を考査委員から解任し東京地検が研究室などを家宅捜索している。
青柳教授は自分が作成にかかわった憲法の論文試験の出題内容を漏らし、論述内容を指導したことがわかっている。論文に記載すべきポイントを具体的に示し、添削まで行っていた疑いもある。司法試験はマークシート方式の「短答式試験」もある。短答式での問題漏えいはなかったのか、漏えいに至った動機は何なのか、早い実態解明が望まれる。
「考査委員」は法相が任命する非常勤の国家公務員で、青柳教授は二〇〇二年から務めている。憲法分野で問題作成をする十三人のうち、取りまとめをする「主査」の立場でもあった。この事件を単純な個人犯罪と済ませては、問題の本質を見失う。
問題作成する人物が、同時に学生を教えているという際どさが、現行制度には潜んでいるからだ。〇七年には考査委員だった慶応大法科大学院の教授が、試験前に答案練習会を開き、類似の論点を学生に教えていたことがあった。やんわりと教えようと思えば、それを防ぐ手だてはない。学生との接し方は、大学教員の倫理観に頼り切っているのが現状だ。
根本的な解決策としては、大学教員を考査委員から外せばいい。実際に〇七年に八十二人いた考査委員の学者は、〇八年に三十八人に減らした。
だが、問題作成には学者の視点が欠かせないという意見もあり、悩ましい。公正さを保てる仕組みづくりが急がれる。
だが、そもそも難易度が極めて高い“難問クイズ”のような試験が望ましいのだろうか。むしろ、思考力を問う基礎的な問題によって、法曹人の素養があるかどうかをチェックする方がいいのではないか。司法試験の内容を根本から見直す機会としたい。