(池上彰の新聞ななめ読み)安保関連法案 世論調査「設問」の重要性 - 朝日新聞(2015年8月28日)

http://www.asahi.com/articles/DA3S11935262.html
http://megalodon.jp/2015-0828-1412-09/www.asahi.com/articles/DA3S11935262.html

8月18日付読売新聞朝刊は、1面で全国世論調査の結果を報じています。これは、8月の15日〜16日に実施したものです。この中に、次のような文章があります。
参院で審議中の安全保障関連法案については、

  • 「賛成」が31%、
  • 「反対」が55%

となった。
法案の今国会での成立に

  • 「賛成」は26%(前回26%)
  • 「反対」は64%( 同64%)

だった。
政府・与党が法案の内容を十分に説明していると思わない人は79%(同82%)
と、国民への理解は広がっておらず、政府にはより丁寧な説明が求められそうだ
では、そもそも法案への賛否はどう変化したのか。「賛成」が31%で「反対」が55%とありますが、こちらは、前回調査との比較がありません。なぜなのか。
今回の調査の質問と回答が、8面の下に掲載されています。この部分に関する質問を見ましょう。
現在、参議院で審議されている、集団的自衛権の限定的な行使を含む、安全保障関連法案についてお聞きします。あなたは、この法案に、賛成ですか、反対ですか
これには驚きました。前回調査とは質問文が変わっているからです。前回の調査で、この部分については、次のような質問文でした。
安全保障関連法案は、日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために、自衛隊の活動を拡大するものです。こうした法律の整備に、賛成ですか、反対ですか
この質問文については、私のこのコラムでも、先月掲載分で指摘しました。こう書きました。
〈こんな聞き方だったら、「それはいいことだ」と賛成と答える人が大勢出そうです。設問で答えを誘導していると言われても仕方ないでしょう。それでも、

  • 「賛成」は38%、
  • 「反対」が51%

でした。賛成の答えを誘導するかのような質問にもかかわらず、「反対」と答えた人の方が、はるかに多い。国民の「理解」は深まっているように思えますが
質問文を変えると、回答はどう変化するのか。7月の調査では「賛成」が38%ありましたが、客観的な質問文に変えた今回、「賛成」は31%に落ちました。「反対」と答えた人は、7月調査では51%でしたが、今回の調査では55%に増えました。質問の表現を変えると、回答の比率も変わる。世論調査に関する論文の題材になるような見事な結果でした。
本来、世論調査は、国民意識の変化を見るのも大事なことですから、質問文をむやみに変えてはいけないのです。
しかし、さすがに7月調査の質問文(実は6月調査も同じ)は、問題が多いという判断になったのでしょうか。おそらく社内で議論が交わされたものと推測できます。質問文を客観的なものに変えたのはいいとしても、それにより、前回調査と比較できなくなったというわけです。
なぜ質問文を変えたのか。読者に対して、「丁寧な説明が求められ」るのではないでしょうか。