(筆洗)一九二九年の十月二十三日、名優チャプリンは、名曲「ホワイトクリスマス」などを生んだ音楽家バーリンと食事をしていた - 東京新聞(2015年8月26日)

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一九二九年の十月二十三日、名優チャプリンは、名曲「ホワイトクリスマス」などを生んだ音楽家バーリンと食事をしていた。彼が株で大もうけしていることを自慢すると、チャプリンは「一千四百万人も失業者がいるのに、どうして株など信じられるか」と冷や水をかけ、口論になった。
翌日、バーリンの富は泡と消えた。この日、ニューヨーク株式市場で株価が大暴落し、世界を揺るがす大恐慌の幕開けとなったのだ。「暗黒の木曜日」である。
中国での株価急落が、世界中を揺るがせている。「世界経済のエンジン」とも称される巨竜がのたうちまわることになれば、どんな大波が起きるか。欧米メディアは「中国版・暗黒の月曜日」と報じている。
考えてみれば、共産党政権という不透明きわまりない政府が透明性が求められる市場を操る不可思議。「卒業することは、失業すること」と言われるほど若者の就職難は深刻なのに、公表される統計からは把握しようもない実態。そんな謎だらけのエンジンがエンストすれば、アベノミクスも急減速はまぬがれまい。
チャプリンに話を戻せば、彼は失業者の増加に注目し、「暗黒の木曜日」の前年に持ち株を売却していたそうだ。
社会の底辺に生きる人々を見据え、名画『街の灯』を撮る。そんな目を持っていたからこそ、希代の名優は経済の先行きを見抜けたのかもしれぬ。