「大戦 深い反省」 天皇陛下 踏み込んだ「お言葉」 - 東京新聞(2015年8月16日)


http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015081602000117.html
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戦後七十年を迎えた十五日に開かれた政府主催の全国戦没者追悼式で、天皇陛下は「さきの大戦に対する深い反省とともに、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬこと」を切に願うなどとするお言葉を述べられた。天皇陛下が追悼式で「深い反省」に言及したのは初めてで、踏み込んだ表現が随所に盛り込まれた。陛下の追悼式でのお言葉は、初めて英語版が宮内庁ホームページで公開され、「深い反省」は「deep remorse」と訳された。 (水谷孝司)
天皇陛下はお言葉で「国民のたゆみない努力と、平和の存続を切望する国民の意識に支えられ、わが国は今日の平和と繁栄を築いてきました」とも述べた。昨年のお言葉と比べ、「平和の存続を切望する国民の意識」が強調された。
定例の行事で、陛下のお言葉が定型的になることは少なくない。出席者の入れ替わりもあり、その時々で内容を変えるのは公平でないことなどが理由とみられる。追悼式でも近年ほとんど内容が変わっていなかったが、戦後七十年の今年は大きく変わった。過去には戦後五十年の節目の一九九五年の追悼式でも、「戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い」などの文言が加わった。
今回、初めて使われた「深い反省」は、追悼式以外の場面では使われた例がある。一九九二年、歴代天皇として初めて訪問した中国での晩さん会で「わが国民は、戦争を再び繰り返してはならないとの深い反省に立ち、平和国家としての道を歩むことを固く決意して、国の再建に取り組みました」とスピーチ。九四年、韓国大統領を迎えた宮中晩さん会では「過去の歴史に対する深い反省の上に立って、貴国国民との間にゆるがぬ信頼と友情を造り上げるべく努めてまいりました」と語った。いずれも政治課題になっていた「過去の清算」に、象徴天皇の立場で踏み込んだ。
陛下はこうしたお言葉や記者会見の回答は、基本的には自ら書いているという。行事の主催者から原案が届いても、側近を通じて資料を調べたりして、直前まで推敲(すいこう)を重ねる。今回の「深い反省」も、検討を尽くした上に加えられたとみられる。
◆草の根の声に寄り添う
天皇陛下が全国戦没者追悼式で述べられたお言葉について、昭和史を題材にした作品を多数執筆している作家の半藤一利さん(85)は「平和の存続を切望する国民の意識に支えられ」という部分に着目する。
「戦後七十年間平和を守るため、必死に努力してきたすべての日本人へ向けた言葉と読むべきだろう。今なら、安全保障法案に反対して声を上げるなど、草の根の人たちも含むと考えられる」と指摘。「政治的発言が許されない象徴天皇という立場で、ぎりぎりの内容に踏み込んだメッセージ」とみる。
「深い反省」の部分にも、非戦に対する強い思いを感じるという。「陛下は少年時代に戦争の惨禍を目の当たりにした。忘れてはいけない、後世へ語り継がなければならないという心の底からの願いがこもっている」と述べた。
ノンフィクション作家の保阪正康さん(75)は「陛下が許される範囲内で示した、昨今の政治情勢への危惧とも読みとれる。結果的に、十四日に閣議決定された安倍晋三首相の七十年談話と対比関係になる」と分析する。
「首相談話は傍観者的な印象だが、陛下のお言葉は『さきの大戦に対する深い反省』などと自らの言葉で言及しており、主観的に負の歴史に向き合っている」と指摘。「海外メディアは通常、終戦の日の陛下のお言葉には興味を示さないが、例年との違いを報じてほしい」と求めた。

初めて英語版が宮内庁ホームページで公開された
http://www.kunaicho.go.jp/e-okotoba/01/address/okotoba-h27e.html#0815