(天声人語)未熟な若手議員の放言にすぎないのだろうか。そうは思えない。自民党の武藤貴也衆院議員が、 - 朝日新聞(2015年8月5日)

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未熟な若手議員の放言にすぎないのだろうか。そうは思えない。自民党の武藤貴也(たかや)衆院議員が、安保関連法案に反対する学生グループ「SEALDs(シールズ)」の主張について、「『だって戦争に行きたくないじゃん』という極端な利己的考え」と批判した。ツイッターへの投稿だ。
氏は続けて「利己的個人主義がここまで蔓延(まんえん)したのは戦後教育のせいだろう」と述べる。戦争を起こすな、憲法9条を守れという訴えが利己的とは、いかなる理屈なのか。
氏が3年前に書いたブログがある。いわく、滅私奉公のような徳の高い「日本精神」を破壊し、社会を荒廃させたのは日本国憲法である。中でも「主犯」は基本的人権の尊重だ。生存権すら制限された戦前と異なり、戦後日本には身勝手な「個人主義」が存在している――。あらゆる問題を今の憲法や戦後教育のせいにする。一部の政治家に見られる発想だ。
これは武藤氏一人のことではない。人権思想を疑う思考は自民党改憲草案にも見て取れる。党の解説書は、「天賦人権説に基づく規定」を全面的に見直したとうたう。
個人主義を嫌がる点も通じる。人権の核心を示す現行13条は「すべて国民は、個人として尊重される」とするが、草案は個人を「人」と改めた。「個」を削り、別途「家(か)」族(ぞく)の尊重を盛り込む。戦前への郷愁がにじむ。
武藤氏ほど露骨ではないにしても、類似した志向性が自民党にはあることを忘れるわけにはいかない。そのような政権による安保法案であることも。