「自国守るため」論理破綻 首相のおごり不信拡大 - 東京新聞(2015年7月17日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015071702000138.html
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◆柳沢協二氏の安保国会ウォッチ
衆院審議でよく分かったのは、安保関連法案について抽象論は言えるが、具体的な説明では矛盾があちこちに出て、きちんとした答弁ができないということだろう。首相は「国民の理解は進んでいない」と自ら認めながら強行採決した。これ以上議論しても矛盾が出るばかりで、参院選に近づく前に一刻も早くやってしまおうと考えたのだろう。
この異常さの背景には、「首相の自分がやっていることが唯一絶対正しい。だからやる」との思い上がりがある。思い上がりの姿を国民が見て、一層不信感を強める。国民と首相の意識のずれが拡大するスパイラル(悪循環)に陥っている。
首相は多数の憲法学者や歴代の内閣法制局長官の「違憲」との指摘に、「最高裁が判断すべきこと」と応じなかった。要するに「学者や元長官は黙れ」と言っているにすぎない。「自分が首相だから異論は聞かず決めていい」との言い方は、民主主義を分かっていないということではないか。
全ての根源は、他国を守るのが集団的自衛権なのに、「自国を守るための集団的自衛権」と、論理的に成り立たないことを進めようとしているからだ。世界の集団的自衛で過去に例がない「自国を守るための集団的自衛権」との考えに無理がある。
「自国を守るため」というのは動機で、法的な性格の要件ではない。一番の基本が論理として矛盾しているから、ぼろが出て答弁が二転三転し、聞けば聞くほど国民が理解できない。
私は法案についてさまざまな指摘をしたが、衆院審議を通じてすべての議論が全く詰まらず、疑問のまま残った。
首相は、祖父の岸信介首相が一九六〇年に反対の中で日米安保条約を改定したことと重ねているかもしれない。だが岸氏は米国に日本防衛義務を負わせた。首相は逆に、米国を世界中で支援する義務を負ってしまったことが決定的に違う。米国の期待感を高めていざやらなかったら、同盟が弱体化する。
最も言いたいのは、国民が理解していること以上のことを自衛隊にやらせてはいけないということ。自衛隊に対する国民の支持の基盤が失われてしまう。安保改定と国連平和維持活動(PKO)協力法では、自衛隊は海外で一人も殺さず、殺されなかった。今回の法案はその逆になってしまうからだ。 (聞き手・金杉貴雄)