英知軽視せず生かせ:私説・論説室から - 東京新聞(2015年6月22日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2015062202000162.html
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「政治家は理論を述べる者をバカにして、頭でっかちのモノ知らずとみなしている。国家のことは何よりも経験がいちばんで、理論など無力(中略)と考えている」。哲学者カントの『永遠平和のために』(池内紀訳)の一節だ。憲法学者がそろって安全保障関連法案を「違憲」と指摘したのに対し、「理」では勝てない議論から逃げ、「自衛措置を考えるのは学者でなく政治家」などと開き直り、学者ひいては知性を露骨に軽んじる政権や与党幹部らの態度を描写したかのようだ。
対照的な対応が、東京電力福島第一原発事故後、ドイツ政府が設置した「安全なエネルギー供給のための倫理委員会」だ。カトリックプロテスタントキリスト教両宗派、経済学、環境学社会学、哲学、失敗学など幅広い分野の知識人をメンバーにそろえた。福島の事故が専門家への信頼を揺るがし、専門を超えた社会的、倫理的な判断が必要になったと考えたためだ。公開討論やテレビ中継で一般の理解も深めながら、二カ月かけて報告をまとめた。原子力の危険性は計り知れないほど大きく、十年以内の脱原発は可能だ、との結論だった。報告をもとに、メルケル首相はそれまでの原発推進から政策を転換した。
安保関連法案は自衛隊のリスクを増大させ、命の問題にもかかわる。次世代への影響も大きい。憲法学者を含めた英知を集め、検討し直してみてはどうか。 (熊倉逸男)