(筆洗)<河豚(ふぐ)汁や鯛(たい)もあるのに無分別>は松尾芭蕉。<河豚食わぬ奴(やつ)には見せな不二の山>は小林一茶 - 東京新聞(2015年6月21日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015062102000116.html
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<河豚(ふぐ)汁や鯛(たい)もあるのに無分別>は松尾芭蕉。<河豚食わぬ奴(やつ)には見せな不二の山>は小林一茶
梅雨空に似合わぬフグの二句だが、芭蕉が猛毒のあるフグを食べる人をたしなめているのに対し、一茶は食べない人は富士山を見る資格さえないという。フグ食を禁じられた武士の出身である芭蕉は一茶よりもフグへの警戒が強かったのではないかという。
国会の「フグ論争」。「フグは毒があるから全部食べたら当たるが、肝を外せば食べられる」。横畠裕介内閣法制局長官が安保関連法案の審議で集団的自衛権の行使容認をフグに例えて答弁した。限定容認という形で毒は除いてあるので、安全で合憲ということらしい。
一茶なら納得したかもしれないが、芭蕉は「やっぱり毒があるんじゃないか」と身構えるか。毒のある肝や卵巣が本当に除かれているのか。「フグ論」では安保法制への世間の不安は消えまい。
フグを県の魚としているのは名産地の山口県。安倍首相のお膝元だが、お国の偉人吉田松陰先生はフグを食べなかった。「河豚を食わざるの記」の中にある。「其(そ)の萬(まん)に一毒あり」「河豚を嗜(この)む者は、必ず他日阿片を貪(むさぼ)る者なり」。毒の危険に、人は次第に鈍感になっていく。
この国は昔フグに大当たりした。笑われようとも慎重になるのは当然である。ましてや、さばいたのは心もとない政府という調理人である。