安保転換を問う 「違憲」の波紋 逆立ちした政府の理屈 - 毎日新聞(2015年6月9日)

http://mainichi.jp/shimen/news/20150609ddm005070033000c.html
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集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法案は憲法違反だと、国会で憲法学者3人が指摘したことの波紋が広がっている。政府・自民党違憲ではないと強弁すればするほど、論理の苦しさが浮かび上がる。
菅義偉官房長官自民党高村正彦副総裁、谷垣禎一幹事長らは、憲法の最終的な解釈権が最高裁にあり、憲法解釈変更は、砂川事件最高裁判決(1959年)の法理論の範囲内だと主張している。
この判決は、最高裁自衛権について憲法判断をした唯一の判決だ。憲法9条のもと、日本の自衛権を認め「自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうる」とした。
菅氏は、記者会見で、判決のこの部分を読み上げ「違憲との指摘は当たらない。憲法の番人である最高裁が決定することだ」と述べた。
だが、判決が認めたのは個別的自衛権であって、集団的自衛権ではない。昨年、憲法解釈を変更する過程で、公明党もそう主張した。そこで政府・自民党は、判決の一部を引用した72年の政府見解を根拠にする方針に切り替え、「自衛の措置」には集団的自衛権の行使が含まれると強引に結論づけた。
今回、72年見解に基づく憲法解釈変更を憲法学者から「説明がつかない」と批判され、また最高裁判決に戻って反論を試みたわけだ。憲法の最終的な解釈権は憲法学者ではなく最高裁にあると言うためだろう。
政府・自民党は、砂川事件最高裁判決にはこだわるのに、衆参両院の「1票の格差」訴訟では、最高裁で「違憲状態」判決を受けても迅速に対処せず、判決を軽視するような態度をとっている。憲法に対して、ご都合主義と言わざるを得ない。
日本の裁判所は、抽象的な違憲審査は行わず、具体的な争いが起きて初めて訴訟として認められる。政府や国会は、立法過程で法律が憲法に適合するかどうか、憲法学者らの意見にも耳を傾けながら、慎重な判断を求められるはずだ。
政府・自民党の反論が苦しいのは、憲法違反の集団的自衛権の行使を無理に認めさせようとするからだ。
中谷元防衛相は衆院の特別委員会で「現在の憲法をいかにこの法案に適応させていけばいいのかという議論を踏まえて閣議決定を行った」と述べた。憲法に適合するように法律を制定するのではなく、政府が制定したい法律に適合するように憲法の解釈を変えたということだ。
憲法98条は、憲法に反する法律は無効と定めている。政府の論理は逆立ちしている。