多様な学び法案 子どもが主役の制度に - 東京新聞(2015年6月4日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015060402000155.html
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不登校の小中学生が集うフリースクールや家庭での学びを義務教育制度に位置づける法案が、今国会に出される見通しだ。教育機会の多様化は歓迎したいが、学びの場が学校化しては元も子もない。
超党派議員連盟議員立法での成立を期すのは、「多様な教育機会確保法」。保護者と子が学校外での学びを望めば、条件つきでそれを義務教育とみなして経済的に支援するという法案である。
憲法は、子に普通教育を受けさせる就学義務を保護者に課し、学校教育法はその義務教育の場を小中学校に限ってきた。実現すれば、学習指導要領に縛られた学校一本やりの戦後教育制度は大きな転換を迫られる。
不登校の小中学生は二十年近く前から十万人を超えたままだ。その多くが解消される可能性が生まれる。実効の上がらなかった学校復帰策は不要になる。
学校に通えないという自責の念、将来への不安、地域の偏見のまなざし。そうした不登校ゆえの苦悩から解放されるに違いない。
もっとも、憲法はすべての子の学ぶ権利を保障している。その精神を踏まえれば、不登校の子ばかりを特別扱いするような仕組みでは公正を欠くだろう。
例えば、シュタイナー教育、フレネ教育といった独特の理念に基づく学校や外国人学校など、制度外の学びの場を自発的に選ぶ子も少なくない。保護者が就学義務を果たしたとみなされる教育の選択肢はできるだけ広げたい。
気がかりなのは、法案が想定している条件である。
学校外で学ぶには、保護者は子の「個別学習計画」を作り、市町村教育委員会の認定を受ける必要がある。加えて、学習の質を保証するためとして、教委は現場を定期的に訪ねて助言するという。
フリースクールや家庭は、子どもが自分らしく安心して過ごせる居場所である。教委が乗り出せば、学校と同様の規律が強いられないか。自由な学びが損なわれないか。そうした懸念が拭えない。
不登校生向け教育サービスの市場競争が激しくなる危険もある。放置しては大手独占が進み、個々の子に応じたきめ細かな学びは期待できなくなるだろう。
制度設計は文部科学省に委ねられるが、学校教育の枠にとらわれた旧来の発想ではこれらの難題は乗り越えられまい。公教育の一翼を担うことになるフリースクールなどの学びの場は社会的責任を自覚し、知恵を絞ってほしい。