大阪での熱い論戦 住民投票の現場から(保坂展人世田谷区長) - Huffington(2015年5月13日)

http://www.huffingtonpost.jp/nobuto-hosaka/osaka_b_7266278.html

世田谷区は、1991年(平成3年)から地域行政制度を発足させています。区内の人口11万〜24万人の範囲ごとに5つの総合支所を置いています。各総合支所には、子育て支援や介護・福祉・まちづくり等の区民生活にとって必要な機能と窓口を置いて、それぞれに約200〜350人の職員がいます。さらに、区民の生活領域に近い27地区に細分化した「出張所・まちづくりセンター」を運営しています。

今回の住民投票で賛否が問われるのは、「大阪市を解体して5つの特別区を設置すること」ですが、暮らしの現場から見ると、現在大阪市内にある24の行政区が5つの特別区に統合されるという側面をもっています。一方で世田谷区は、区内で分権をすすめ、各総合支所に予算と権限を移そう、27の出張所・まちづくりセンターに防災や福祉の身近な相談の窓口を設置して「地域包括ケアの世田谷モデル」をつくろうとしています。

88万人という県レベルにも匹敵する規模の自治体で、そもそも区役所本庁だけですべてを切り回そうとしても、ていねいな仕事やサービスは行き届きません。人口11万から24万人の地域ごとに総合支所を置き、さらに生活の場に近い人口平均約3万人の出張所・まちづくりセンターに、防災コミュニティづくりや身近な福祉の相談の窓口をつくろうとしている世田谷区で、もし「総合支所を統合して1ヶ所の本庁へ」という提案が出てきたとしたら、住民サービスの密度は粗くなり、水準は下がります。

住民サービスの質が維持されるのか、低下するのか。災害時の危機管理や地域の対応力は維持されるのか、分解するのか。そこが、大阪市民にとっては、いちばん大きな関心事ではないでしょうか。

20日間という運動期間がある住民投票では、すでに多くの大阪市民が期日前投票に出かけているようです。東京の特別区には区長公選さえ奪われた苦難の歴史があり、自治権拡充を交渉と運動で勝ち取ってきました。それでもなお多くの課題を残していることは、誰もが認めるところです。

大阪市は、特別区よりはるかに多くの権限をもっている政令市です。人口270万のその大阪市を一度壊してしまえば、元には戻せません。

東京の特別区の課題と現状について2週続けて書きました。大阪市民の間で起きている住民投票の賛否の議論には、これからの全国の自治体が直面する分権や自治のあり方について有益な課題がたくさん出ています。