「その子」は私:私説・論説室から - 東京新聞(2015年5月6日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2015050602000173.html
http://megalodon.jp/2015-0507-0931-21/www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2015050602000173.html

「この基金があったから、塾に通え、志望校に合格することができました」
貧困家庭の子どもを支援する「梅ケ枝(うめがえ)中央きずな基金」の第一期奨学生の一人は今春、大阪大学に入学。三月末に開かれた基金の交流会で、こう報告した。
大阪弁護士会会長の山田庸男(つねお)弁護士(71)は一昨年、四十年余りの活動でためた私財四億円を投じ、基金を設立した。ひとり親家庭や両親がいない子どもに、塾代などを支援する。同府内の中高生四十数人を対象に一人年三十万〜五十万円を支給し、返済は不要だ。
山田さん自身、母子家庭に育った。父親は山田さんが一歳の時に戦死した。母親は病気で働けず、小中学校時代は新聞配達をして家計を支えた。中学卒業後は働くつもりだったが、中三の時の担任教師が奨学金を紹介し、母親を説得。商業高校卒業後は日立製作所に就職し、大学の夜間部で法律を学んだ。
「私は戦中生まれ。当時は競争よりも共生の時代だった。そういう中、私は本来、高校も行けなかったのに、大学まで行けた。自分が育った良き時代のいいところを、これからの社会に生かさなければいかんと。古希を前に思ったのです」
山田さんは「他人に尽くすということは自分に返ってくる、ということをものすごく実感する。子の成長を見届けることは、私自身の生きがいです」と語る。 (上坂修子)