安倍首相の指示で作られた「改憲推進マンガ」がデタラメだらけであることが判明 - BUZZAP!(2015年5月3日)

http://buzzap.jp/news/20150503-kenpoukaisei-manga/

マンガでの若者への政策アピールは既に珍しいことではありませんが、このマンガに関しては内容があまりにもデタラメだらけであることがネットでは大きな批判の的となっています。
マンガの登場人物は戦争体験を持つ曽祖父(92歳)と祖父(64歳)、父(35歳)、母(29歳)に孫(2歳)の5人家族、ほのぼの一家。彼らが憲法改正について語り合うというもの。主に曽祖父が敗戦と日本国憲法の成立過程について昔語りを交えて会話をリードしていきます。
まず最初におかしな話は11ページから。昭和21年というネットもケータイも環境問題という考え方もなかった時代に作られた憲法が今の社会とかけ離れておりついてこれるのかに疑問を呈しています。
風営法のダンス規制問題で似たような理由で法改正を目指していましたが、法律と憲法はもちろん一緒くたにはできません。憲法にITやエコの話が書かれていないのは、それらが個別の法律ないし条例で規制なり運用されるべきものであるからです。
そもそも、憲法は国民ではなく国家が守らなければならない法律であるという立憲主義の基本中の基本を理解できているのか怪しくなってくる内容です。AKB48内山奈月さんが以下のようにシンプルに述べている認識は憲法を語る上では必須。これを前提としない議論はその一歩目から致命的に間違っていることになります。
この後に語られる日本国憲法成立に至る過程の描写も非常に恣意的で、安倍首相の「押し付け憲法」という憲法観に沿った描き方をされています。
日本国憲法の成立過程については、美智子皇后の2013年の誕生日に際した談話でも言及されている、日本国憲法GHQ草案に実際に関わったベアテ・ゴードンさんへのインタビューを改憲派護憲派共に一読頂きたいところ。
ベアテ・シロタ・ゴードンさんロングインタビュー 日本国憲法第9条にかける私の想い
非常に長いですが、「PART2 GHQ憲法の草案の話。」だけでも目を通し、マンガの描写と比較してみてください。これに関してはひとつの資料やストーリーで全てを理解したつもりになることは非常に危険です。
そして「その2」の27ページでは「公共の福祉って?」という疑問に曽祖父が自信満々で「公益」と答えていますが、これは中学校の公民のテストでもバツをもらいます。自民党改憲草案では公共の福祉が全て「公益及び公の秩序」と言い換えられてることが大きな話題となりましたが、本気で公共の福祉と公益を同一視しているのであれば大問題です。
また、次のページでは「公益に反してなきゃ個人の幸福を追求するためなら何でもやっていいってこと?」との質問に「原則はその通り!!ほかの人の人権を侵さなければ何をしても自由ってことじゃ!!」と答えていますが、いつの間にか「公益(敢えてこの言葉を使います)」が「ほかの人の人権」へと二重にすり替わっています。
そして次のコマで出てくる国際人権規約の記述が出てきます。これが日本の憲法より厳密に書いてあるとしていますが、日本もこの国際人権規約は批准していることには触れずに「日本じゃ国の安全に反してもワガママOKってこと!?」と続けます。批准していることの意味が分かっていないのか、あまりにも憲法のみにフォーカスしすぎて個別法や国際法との関連への視点がすっぽり抜け落ちています。
また、先に指摘した「憲法は国家が守らなければならないもの」とする立憲主義の前提が抜け落ちたままのため、なぜか国民の「ワガママ」を縛るルールの話になっています。
なお、憲法で危険な結社や宗教団体が簡単に解散させられないことを問題視していますが、もし解散させられるようになれば安倍首相と関係の深い韓国発のキリスト教系カルト、世界基督教統一神霊協会統一教会)は真っ先に規制されることになりそうですが、大丈夫でしょうか?
そして極めつけは最終章のこのセリフ「敗戦した日本にGHQが与えた憲法のままではいつまで経っても日本は敗戦国なんじゃ」。憲法を変えれば敗戦国でなくなるという理屈がどこをどう考えても全く意味不明。独自憲法を持てば敗戦国でなくなると認識しているならば、それは歴史修正主義と言われても仕方のないもの。

日本国憲法第9条にかける私の想い ベアテ・シロタ・ゴードンさんロングインタビュー -shinyawatanabe.net (2007年4月25日)
http://www.shinyawatanabe.net/atomicsunshine/BeateSirotaGordon/interview

ベアテ・シロタ・ゴードンさんロングインタビュー公開に寄せて
このインタビューは2007年4月25日、アトミックサンシャイン展のプラットフォームイベントとしてニューヨークのアジアソサエティにて開催された、憲法第九条を巡るシンポジウム開催直後に取られたものです。GENERATION TIMES編集長の伊藤剛さんを中心に、ベアテさんの自宅にて五時間に渡り録音されたものですが、去る2012年12月30日、ベアテさんがお亡くなりになった今、歴史的資料となってしまいました。