戦後70年 憲法を考える 9条を超える「日米同盟」-東京新聞(2015年5月2日)

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日本国憲法が施行される前から日本に駐留している米軍。今後はその米軍とともに自衛隊が地球規模で武力行使を含む軍事行動に参加するというのです。
日本は太平洋戦争後の一九五二年、サンフランシスコ講和条約により、主権国家として国際社会に復帰しました。同時に日米安全保障条約(旧条約)が施行され、敗戦後から駐留していた米軍は正式に基地を置くことが認められました。旧条約は「日本は軍隊を持たないので国を守る手段がない。だから米軍にいてもらう」という内容でした。ただし、日本防衛についてはっきり書かれておらず、日本で暴動が起こった場合、米軍が出動できる決まりがあるなど不平等なものでした。
◆「片手間」の日本防衛
六〇年、当時の岸信介首相のときに改定され、米国には日本を防衛する義務があること(第五条)、その代わり、日本は米国に基地を提供する義務があること(第六条)が明記され、条約上、日米は対等になりました。
現行の日米安全保障条約について、外務事務次官、駐米日本大使を務め、「ミスター外務省」と呼ばれた村田良平氏は「村田良平回想録」(二〇〇八年)の中で、こう指摘しています。
「米国は日本の国土を利用させてもらっており、いわばその片手間に日本の防衛も手伝うというのが安保条約の真の姿である以上、日本が世界最高額の米軍経費を持たねばならない義務など本来ない。もはや『米国が守っている』といった米側の発想など日本は受け付けるべきではないのだ」
村田氏は〇九年、安保条約改定時に核兵器を積んだ米艦艇の日本寄港に事前協議は必要ないとする日米核密約が存在することを証言した人物でもあります。日米外交の舞台裏を知り尽くした外務官僚の本音といえるでしょう。
◆空文化する安保条約
村田氏のいう世界最高額の米軍経費とは、日本の米軍経費負担(本年度約五千七百億円)がドイツ、韓国など米軍基地を抱えるどの国よりも多いことを指しています。経費負担は義務ではありませんが、日本政府は在日米軍について、他国が日本への侵略を思いとどまる「抑止力」と説明しており、米軍にいてもらうためには基地だけでなく、カネも差し出さなければならないというのです。
在日米軍の姿をみていきましょう。在日米軍司令部によると米兵は四万二千人、日本政府が給料を支払う日本人従業員が二万五千人います。主要基地は青森・三沢、東京・横田、神奈川の横須賀、厚木、座間、山口・岩国、長崎・佐世保、沖縄の嘉手納、普天間などで陸海空海兵隊の四軍が使用しています。
日米安保条約第六条によると、基地は「日本の安全と極東における国際の平和と安全」のために使われ、極東は「フィリピン以北並びに日本およびその周辺の地域」(政府見解)とされていますが、在日米軍は古くはベトナム戦争、近年では、アフガニスタン攻撃、イラク戦争に参戦しています。
例えば〇五年、沖縄の第三一海兵遠征隊は佐世保基地強襲揚陸艦岩国基地のヘリコプターとともにイラクへ派遣され、兵員二千二百人のうち、五十人が死亡、二百二十一人が負傷して沖縄に戻っています。
「極東」を越える地域への出撃は日米の事前協議が必要ですが、一度も行われたことがありません。日本政府は事前協議が不要な「移動」と解釈し、実際の「出撃」を黙認し続けることによって取り決めを空文化させているからです。戦争放棄を定めた日本国憲法がありながら、在日米軍が行う「米国の戦争」には目をつぶってきたのです。
日本政府はその態度を改めることなく、今後は米軍との関わりを深めていきます。安倍晋三政権は先月、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を改定し、米国の戦争に積極的に参加することを約束しました。地球規模で連携する日本と米国は、安全保障条約はもちろん、日本国憲法さえも超越した軍事同盟となります。まさに安倍首相が著書「この国を守る決意」の中で言っていた「血の同盟」の誕生です。
一方で米軍は日本が武力攻撃を受けても自衛隊の作戦を「支援しおよび補完する」(新ガイドライン)にとどまります。村田氏のいう通り「片手間に日本の防衛も手伝う」のかもしれません。
◆「戦争しない国」の変質
確かなのは、憲法が求め、戦後七十年かけて実現した「戦争をしない国」が変質していくということ。望んで従うのですから、米国が歓迎するのは当然です。憲法九条から逸脱すれば、平和国家としての国際的な信頼は失われていくのではないでしょうか。