村上春樹さん:時代と歴史と物語を語る みんな一生懸命生きている - 毎日新聞(2015年4月27日)

http://mainichi.jp/feature/news/20150427mog00m040004000c.html
http://megalodon.jp/2015-0427-1506-15/mainichi.jp/feature/news/20150427mog00m040004000c.html

今や世界を代表する作家となった村上春樹さんが、読者とのメール応答サイト「村上さんのところ」を開設、質問は締め切られたが、寄せられたメールへの返信に日々取り組んでいる。その合間を縫って、インタビューに東京都内で応じた。地下鉄サリン事件20年やテロリズム、東アジアの国々との関係、原発問題、自作の世界について。時代と歴史と物語をめぐって、話は展開した。
地殻変動
 −−歴史認識の問題についてはどう思いますか?
村上 今、東アジアには大きな地殻変動が起きています。日本が経済大国で、中国も韓国も途上国という時には、その関係の中でいろんな問題が抑え込まれていました。ところが中国、韓国の国力が上がって、その構造が崩れ、封印されていた問題が噴き出してきている。相対的に力が低下してきた日本には自信喪失みたいなものがあって、なかなかそういう展開を率直に受け入れることができない。

 −−日中韓のバランスの基盤が新しくできるまではいろいろある?
村上 落ち着くまでにはかなりの波乱があるでしょうね。中国経済がこのまま成長していくかどうかもわかりません。軍事力のバランスがどこで落ち着くかもわかりません。ただ歴史認識の問題はすごく大事なことで、ちゃんと謝ることが大切だと僕は思う。相手国が「すっきりしたわけじゃないけれど、それだけ謝ってくれたから、わかりました、もういいでしょう」と言うまで謝るしかないんじゃないかな。謝ることは恥ずかしいことではありません。細かい事実はともかく、他国に侵略したという大筋は事実なんだから。
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◇核発電所
村上 地震も火山もないドイツで原発を撤廃することが決まっているわけです。危険だからという理由で。原発が効率的でいいなんて、ドイツ人は誰も言っていません。
 −−読者との交流サイトで「原子力発電所」ではなく「核発電所」と呼ぼうと提案していますね。
村上 「ニュークリアプラント(nuclear plant)」は本来「原子力発電所」ではなく「核発電所」です。ニュークリア=核だから。原子力はアトミックパワー(atomic power)です。核が核爆弾を連想させ、原子力が平和利用を連想させるので「原子力発電所」と言いかえているのでしょう。今後はちゃんと「核発電所」「核発」と呼んだらどうかというのが僕からの提案です。【聞き手は共同通信編集委員・小山鉄郎】