憲法審査会 “味見”改憲はあざとい-東京新聞(2015年4月8日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015040802000159.html
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衆院憲法審査会が今月上旬に開かれた。自民党の狙いは各党の合意が得られやすい条項から憲法論議を進めることだ。九条から目を離させ、改憲を国民に“味見”させるような手法はあざとい。
二日の審査会では、保岡興治会長(自民党)が「憲法論議は政権や政策をめぐる対立から距離を置き、大局的な見地で議論を深化させていくべきだ」と各党に要請し、短時間で終わった。
自民党が描くスケジュールは、来年夏の参院選改憲勢力が三分の二を確保したうえで、二〇一七年に改憲を発議することだと聞く。まず緊急事態条項や環境権を新設し、次の段階で九条の見直しを図るとも伝えられる。
九条改正という国論を二分する問題で改憲が失敗したときの打撃を考えているのだろう。幅広く合意が得られる条項を優先する方法は、いちど国民に改憲を味わってもらうウオーミングアップに似ている。目くらましの手法だ。
そもそも各党の合意が得られやすいという緊急事態条項も簡単なテーマではない。いわゆる国家緊急権の問題である。他国から武力攻撃を受けたときや大災害など非常時に憲法秩序を一時停止する考え方だ。首相や内閣に独裁的な権限を与える一方で、国民の権利が制限されてしまう。
この条項を設けようとする論者は、首相らへの権限集中の必要があると考え、あらかじめ憲法に発動要件や手続きなどを定めておくべきだという。
だが、現行憲法の下でも、緊急事態に対処する措置がとられていることを押さえるべきだ。武力攻撃が発生すれば、防衛出動の定めが自衛隊法にある。同法には治安出動や国民保護派遣などの定めがある。ほかに武力攻撃事態対処法や国民保護法などもある。
大災害に対しても、災害対策基本法を柱にしてさまざまな法が備わり、閣議にかけて災害緊急事態の布告をすることができる。
明治憲法下では戦時や内乱時に「戒厳宣告の大権」の定めがあり、議会の統制も効かなかった。国家機関に独裁的な権限行使を認める国家緊急権には乱用の危険が常につきまとう。
憲法秩序の否定を憲法に埋め込むことには「憲法の自殺」だという見解もある。
「国家存亡」という言葉に翻弄(ほんろう)されて、権力に超憲法的な力まで与えれば、どんな結末になるかは歴史が教える。安易に各党が合意できる条項でもないはずだ。