日本はアジアの次の独裁国家になるのか?-内田樹の研究室(2015年2月25日)

http://blog.tatsuru.com/2015/02/25_1234.php

Bloomberg Viewという海外メディアに安倍政権の改憲の企てがめざす方向についての興味深いコメントが載っていた。
書いたのはNoa Smithさん。ニューヨーク州立大学Stony Brook 校の准教授とある。
たぶんアメリカのリベラル知識人の「最大公約数」的見解だろう。
こういう判断をする人たちがホワイトハウスに影響力を持つならば、安倍の暴走は「外圧」によって阻止される希望がある。
著者は野党が自民党の対抗勢力としてほとんど役に立たないことについては言及しているが、日本のメディアの反権力的な機能については一語も費やしていない。
話題にするだけ「無駄」だということを知っているのだろう。
それにしても、天皇ホワイトハウスしか自民党の「革命」を止める実効的な勢力が存在しないというような時代を生きているうちに迎えることになるとは思ってもみなかった。

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自民党改憲草案が九条廃絶をめざすのは事実だし、九条廃絶が安倍の改憲の主要な目的であることも事実である。けれども、われわれががこの問題を非武装という論点にだけ焦点を合わて見るのは、重要な論点から目をそらせることになる。
たしかに、九条廃絶はデリケートな問題である。日本はすでに軍隊を保有している(名前は「自衛隊」だが)。そして、九条の非武装条項はかなりゆるく解釈されているから、ここで九条を廃絶してみても事態はほとんど変わらない。憲法が改定されたからと言って、日本が他国に侵略を始めるということはほとんど考えられない。日本はただ、その事実上の軍隊をふつうに軍隊と呼ぶようになるというだけの話である。
しかし、九条問題に気を取られていると、われわれは自民党草案が日本国民の自由にどのような打撃を与えることになるのかを見落としてしまう。

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But there is real danger in this new constitution. First, it may be part of a wider LDP effort to crack down on civil society, which has become more obstreperous in the wake of poor economic performance and the Fukushima nuclear accident. The government secrets law and other crackdowns on press freedom are a worrying sign -- Japan has already slipped from 10th in Reporters Without Borders’ global press freedom ranking in 2010 to 61st in 2015.

第一に、これが自民党による市民社会抑圧の企ての一部だということである。この動きは経済の低迷と福島原発事故の後、一層物騒なものになってきている。特定秘密保護法とその他の出版の自由に対する弾圧はその危険を知らせる徴候である。国境なきジャーナリストが発表した報道の自由ランキングで、日本は2010年の10位から2015年には61位にまで転落した。

Second, adopting the LDP’s draft could be an international relations disaster. If Japan opts for the kind of illiberal democracy that is currently the fashion in Turkey and Hungary, it could weaken the country’s regional appeal as an alternative to China’s repressive state. It could also lead to the weakening of the U.S.-Japan alliance -- without the glue of shared values holding the alliance together, the U.S. might be tempted to adopt a more neutral posture between an illiberal China and a mostly illiberal Japan.

第二は自民党改憲草案を採択した場合、それが国際社会にもたらすマイナスの影響である。もし日本がトルコやハンガリーのような非自由主義的な民主政体に向かって舵を切った場合、それはアジア地域において日本がこれまで保持してきた、中国という抑圧的な国家の対抗軸としての特性を打ち消すことになるだろう。その結果、日米同盟も弱体化する。日米両国はこれまで価値観の共有によって一体化してきたわけだが、それが失われるからである。これから先、アメリカは非自由主義的な中国と、かなり非自由主義的な日本の双方に対して、これまで以上に中立的な立場を採択することになるだろう。