ホロコースト証言「ショア」20年ぶり上映 善悪とは、正義とは、そして…-東京新聞(2015年2月12日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/entertainment/news/CK2015021202000176.html
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ナチス・ドイツ強制収容所ユダヤ人らを殺害したホロコースト(大量虐殺)の記録を、関係者の証言のみでつづる映画「SHOAH ショア」(クロード・ランズマン監督)が14日から、ほぼ20年ぶりに東京・渋谷の劇場で3週間限定で公開される。4部に分けて上映される本編は9時間27分、日本版DVDも絶版になっていた「幻の作品」だ。今回は二つの続編も劇場で初上映され、全部見ると14時間を超える。終戦70年。この作品を見る意義とは−。 (前田朋子)

「ショア」本編は一九八五年に完成。翌年のベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞するなど高く評価され、日本では九五年に初公開された。長い時間はネックだが、上映するシアター・イメージフォーラムの劇場担当山下宏洋さんによると、同劇場では想田和弘監督の「演劇1・2」(計五時間四十二分)を二〇一二年に上映したが、好評だった。「力のある作品なら興行的に成り立つ。単純な娯楽でなく、より濃い体験として映画を求める人は多い」と自信を見せる。

とはいえ、難解な用語も飛び交い、一筋縄でいかない作品だ。ホロコースト教育を専門とし、高校教員のころに作品を授業で教材として使ったことがある高橋健司鳥取大准教授(社会科教育)は、「見る人ごとに大きな問いを投げかける映画」と表現する。

その一例が、当時のドイツ国鉄でダイヤ編成を担当した人物がユダヤ人移送列車を語る場面。目的地が収容所と知りつつも「デスクにくぎ付けだった」と虐殺を知り得た可能性を否定。上からの指示にただ従う姿は、一連のオウム真理教事件の公判で被告らが「(事件は)教祖の指示で行った」と述べた姿とも重なる。「組織の中で働かねばならない人にとっては、個人の良心より組織が優先する組織論として見ることもできる」。鑑賞した生徒は「皆おかしいと知っているのに『裸の王様』のようだ」と感想を述べたという。

今回の芥川賞に決まった作家で仏文学者の小野正嗣(まさつぐ)立教大准教授も、講義で「ショア」のほかナチズムを告発するアラン・レネ監督の「夜と霧」を見せている。淡々と進む「ショア」では学生の多くが寝てしまい、「夜と霧」には「残酷なものを見せるな」「気持ちの悪いものを見て時間を無駄にした」との感想も。だが小野さんは、人間が同じ人間に行った残虐行為を忘れないためにも、学生たちに見てほしいと言う。理解しようと挑み、歴史的背景なども併せて議論することで、記憶が後世に伝えられると考えるからだ。「『ショア』など人間性、非人間性の極限に真っ向から取り組んだ優れた作品を見ることは、自分で考え、想像することを学ぶことでもある」

ホロコーストは、ナチス・ドイツという「悪」による戦時下の異常で特殊な出来事として扱われやすい。だが、その根はレイシズムや排外主義という現代社会が直面する問題にも通じる。高橋さんは「先入観を持たず、自分をナチス側、ユダヤ人側どちらにもなり得る可能性があると考えて見てほしい。心の弱さや揺らぎを映し出す生身の証人の語りは、善悪とは、正義とは、人間とは何かを考えさせる」と話している。

<SHOAH> ヘブライ語で「絶滅」の意味。第2次世界大戦中にレジスタンスとして活動したユダヤ系フランス人のランズマン監督が、1976〜81年に14カ国を回り350時間分を撮影し編集。記録映像やドラマを使わず、撮影当時の現地とインタビュー映像で構成した。収容所からの生還者のほか、虐殺の手伝いを強いられた「労働用ユダヤ人」や、移送列車の機関士らが登場し、収容所のナチス・ドイツ親衛隊元伍長の証言も隠し撮りで紹介される。

続編は、現在のポーランドにあった収容所での武装蜂起と脱走劇を描く「ソビブル、1943年10月14日午後4時」(2001年)、ゲットーの長老として生き延びたユダヤ教指導者に聞く「不正義の果て」(13年)。

シアター・イメージフォーラム
http://www.imageforum.co.jp/theatre/index.html
ホロコーストの“記憶”を“記録”したクロード・ランズマン監督作ドキュメンタリー3本!
SHOAH ショア」「ソビブル、1943年10月14日午後4時」「不正義の果て」
http://mermaidfilms.co.jp/70/

フライヤー
http://mermaidfilms.co.jp/70/B4flyer.pdf