PC遠隔操作 誤認逮捕の教訓を刻め-東京新聞(2015年2月7日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015020702000156.html
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他人のパソコン(PC)を遠隔操作して航空機爆破などを予告した被告に懲役八年の判決が出た。問題は捜査の過程で無実の人が四人も誤認逮捕されたことだ。この苦い教訓を深く刻んでほしい。

元IT関連会社社員が問われたのはハイジャック防止法違反罪や威力業務妨害罪、脅迫罪などだ。「飛行機に爆弾を持ち込み、洋上で爆発するようにしてある」「小学校を襲撃して皆殺しにしてやる」などとネット上に書き込んだ。

しかも、犯罪予告文を第三者のパソコンで遠隔操作できるプログラムをつくり、感染させるなどして、自らの犯行の痕跡を消していた。判決が「周到な準備をした上で、巧妙な手口で敢行したものであり、サイバー犯罪の中でも悪質な犯行だ」と厳しく指弾したのも当然といえる。

被告は起訴後にも、別に真犯人が存在するかのように見せかけるため、保釈中に工作をした。自分の公判出廷中の時間に自動的にメールが送信されるようスマートフォンを河川敷に埋めたのだ。「類を見ない悪質な罪証隠滅工作」とも判決は指摘した。まさに国家権力を出し抜き、自分の知識や技術の腕試しをしたいと考えた卑劣な犯罪だ。

だが、問題は被告のたくらみどおりに振り回された捜査当局にもある。東京と神奈川、三重、大阪の都府県警が四人の男性を誤認逮捕したからだ。驚くべきことに二人は取り調べに「自白」していた。やってもいない犯罪を自白するとはどういうことなのか。

一人は保護観察処分になった。一貫して否認を続けた人まで起訴された。明らかなぬれぎぬである。虚偽の自白であったことを見抜けなかった検察や裁判所の問題もあるが、デジタル証拠以外の証拠収集を怠ったずさんな捜査と強引な取り調べが原因なのは間違いない。

取り調べの可視化が進んでいるが、今回の事件などはその対象とならない。警察当局は裁判員裁判の対象事件しか、可視化するつもりはないからだ。これは全事件のわずか3%にすぎない。このレベルの改革では今回のような誤認逮捕事件の再発は防げまい。

生活の多くをネットに依存する世の中では、不正送金事件などさまざまなサイバー犯罪が今後も多発していくのは明らかだ。捜査当局はさらに捜査能力を高めると同時に国際連携も深めていかないと、ネット時代の巧妙な犯罪に追いつけない。