Listening:<記者の目>NHK・籾井会長の1年=望月麻紀(東京学芸部) - 毎日新聞(2015年2月4日)

http://mainichi.jp/journalism/listening/news/20150204org00m040002000c.html
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◇「政治的な内容」自主規制の風潮
その結果、籾井会長が直接的に番組内容に介入しなくても、放送の現場が自律的に政治的な内容、とりわけ与党の方針に異を唱える内容を自主規制する、いわゆる「そんたく」する風土が強まっているという。複数の職員がそう証言する。

たとえば、昨年の衆院選の選挙期間中には、俳優の宝田明氏が番組で戦争体験を語り、「戦争は人間の大罪」と断じた上で、投票の重要性を説こうとしたところ、男性アナウンサーがインタビューを終わらせようとした。

参照:宝田明さん:反戦の訴え、NHK生番組で遮られ… - 毎日新聞(2015年1月21日)

問題が表面化するのはごく一部に過ぎない。番組を統括する立場にある職員は「人事異動の不定期化の実例を目の当たりにして、自分や上司に汚点が付かないよう、番組作りを自主規制している風潮がある」。別の職員は「そんたくの横行に無自覚な人が多い」と危機感を募らせる。

1月31日、経営委員会が視聴者の意見を聞く会を水戸市で開いた。「見た番組の分だけ支払う制度に変更できないのか」など、放送サービスは受信料支払いへの対価との認識を持つ人が多かった。「財政面で政治や商業主義からの自主性を維持する」という公共放送を支える受信料制度の理念が浸透しているとはいえない。

籾井会長とNHK職員はこの現実を直視すべきではないのか。政治家や上司の顔色をうかがうのではなく、視聴者に必要な情報、視聴者の期待に応える番組を放送する。その姿勢なくしては、受信料収入から3000億円超をあてる放送センターの建て替え計画も、インターネットでの番組視聴を有料化する受信料制度の見直しも理解されないだろう。