最悪の結末となった日本人人質事件ーー「テロに屈しない」ために“教訓”とすべき姿勢とは(江川紹子の「事件ウオッチ」第22回)-Business Journal(2015年2月3日)

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http://biz-journal.jp/2015/02/post_8805.html
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先月20日にISISが2人の映像を公開し、日本に2億ドルの身代金を要求して以来、多くの人が2人の無事を願った。湯川さん殺害の後も、後藤さんの命を救おうとたくさんの人が声を挙げた。しかしインターネットの世界では、事件を政治的なアピールに利用しようとする残念な発言も実に多く見られた。

それは、一方では、このような事態になったのは安倍首相の責任だと糾弾し、退陣を要求する声。ネット上のみならず、官邸前で後藤さん救出のアピールを行った人々の中にも、安倍首相を敵視する表示や、安倍政権の政策に反対するプラカードなどが見られた。集団的自衛権憲法改正の問題は大事だが、後藤さん救出のための動きに乗じて、そうした政治主張を展開するのは違うのではないか。

もう一方には、政権を擁護するあまりか、「自己責任」を言い募りデマまで飛ばして、被害者である2人を批判する声がある。田母神俊雄・元航空幕僚長のように、「後藤健二さんと、その母親の石堂順子さんは姓が違いますが、どうなっているのでしょうか。ネットでは在日の方で通名を使っているからだという情報が流れています」などとデマを拡散した揚げ句、母親の謝罪がないと、これまた事実に基づかない非難をしている者もいた。

いずれも、敵を見間違えている、といわざるをえない。今回の事態について非難されるべきは、被害者でも日本政府でもなく、非道なテロ行為を行っているテロ組織にほかならない。

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http://biz-journal.jp/2015/02/post_8805_2.html

「テロに屈しない」は、拳を振り上げたり、大声で叫んだり、武力で対抗することを意味しない。後藤さん殺害の報があった当日、菅官房長官は記者会見でISISへの空爆を行っているアメリカ主導の有志連合に対して「資金や人的な協力を検討する可能性はあるのか」という記者の質問に、「それはまったくない」と述べた。シリア内戦やISISの問題に関しては、武力行使とは一線を画し、もっぱら人道支援を行うのが日本が示してきた基本的立場。それを堅持する姿勢を見せ、テロが日本の外交姿勢を変えられないと示した。これも「テロに屈しない」、静かな決意表明といえる。

日本には日本のやり方がある。あのような残忍な挑発に、日本は乗らない。テロによって日本の基本的姿勢を変えることはできない。私たちは、それを静かに、そしてぶれることなく、示し続けていきたい。

(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子(えがわ・しょうこ)
東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。元厚労省局長・村木厚子さんの『私は負けない「郵便不正事件」はこうして作られた』では取材・構成を担当。クラシック音楽への造詣も深い。
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