【東大話法の見本】池内恵東京大学准教授「「イスラーム国」による日本人人質殺害予告について:メディアの皆様へ」という記事について-安冨歩さんブログ(2015年1月22日)

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*テロに怯えて「政策を変更した」「政策を変更したと思われる行動を行った」「政策を変更しようと主張する勢力が社会の中に多くいたと認識された」事実があれば、次のテロを誘発する。日本は軍事的な報復を行わないことが明白な国であるため、テロリストにとっては、テロを行うことへの閾値は低いが、テロを行なって得られる軍事的効果がないためメリットも薄い国だった。つまりテロリストにとって日本は標的としてロー・リスクではあるがロー・リターンの国だった。

決して身代金を払わないイギリスとアメリカとの国民が、頻繁にテロのターゲットになっている事実はどう説明するのだろうか。

しかしテロリスト側が中東諸国への経済支援まで正当なテロの対象であると主張しているのが今回の殺害予告の特徴であり、重大な要素である。それが日本国民に広く受け入れられるか、日本の政策になんらかの影響を与えたとみなされた場合は、今後テロの危険性は極めて高くなる。日本をテロの対象とすることがロー・リスクであるとともに、経済的に、あるいは外交姿勢を変えさせて欧米側陣営に象徴的な足並みの乱れを生じさせる、ハイ・リターンの国であることが明白になるからだ。

「正当なテロの対象であると主張」という表現が奇妙だが、それはおいておこう。

こんな風に、リスクとリターンで議論できるものなのだろうか。それを一概に言えるほど、単純なことではない。もし日本が政策変更したとして、それで調子に乗って頻繁にテロを日本に仕掛けたら、それこそ日本人も怒り狂い、諸外国がとめるもの聞かずISISに襲いかかってくる可能性だってある。

それに、身代金は支払わないが、人道的援助の対象にISISを加えるという政策だってある。現に、そこに沢山の悲惨な状況にある人々がいるのであるから。もちろん、そんなことをしたら足並みが乱れるだろうが、過去の経緯を見れば明らかだが、足並みを揃えていたって、ISISを弱らせるのは非常に困難である。

考えて見ればよいが、タリバンアフガニスタンや、フセインイラクを崩壊させる前と、させた後は、どちらがマシだっただろうか。やればやるほど具合が悪くなっていないだろうか。それは理由は簡単であって、国家というものが、実は壊れやすいものだからである。

国家が強固で、簡単には壊れないのであれば、その国に戦争を仕掛けて負けさせたら、それでOKである。日本がその例だ。日本は、戦っている間は本当に下手くそで間抜けであったが、負けたとなると、急に立派になり、それこそ世界史上、如何なる国よりも立派に負けた。それゆえにこそ、その後の繁栄があったのだ。これは日本が世界に誇りうることだ。

しかし、国家が脆弱であるなら、戦争を仕掛けられると、国家そのものが崩れてしまうのだ。そうなると、戦争に勝つことも負けることもできず、両者は無秩序の泥沼に足をとられるのだ。

ISISをたたきつぶせば、何が起きるかというと、更なる無秩序が起きる。というより、ISISは、まさに無秩序そのものを栄養にして成長する怪物のようなものだ。無秩序を拡大すれば、ますます成長するのかもしれない。そういう極めて厄介な相手であると考えるべきだ、と私は思う。

今、必要とされていることは、秩序の再生だ。それは、外部からの強権によって実現できるものではない。その地域の人々の間に、暴力を超える力が生成されなければ、決してできないことなのだ。一体、どうやったらそんなことができるのか、私にもまったくわからないが、そのような極めて難しい問題に直面しているのだ、と私は考える。少なくとも、暴力を行使し続ける限り、無秩序は拡大していく。