東京新聞:まやかしの湾岸トラウマ:私説・論説室から-東京新聞(2014年12月31日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2014123102000127.html
http://megalodon.jp/2015-0101-1226-37/www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2014123102000127.html

集団的自衛権の行使容認が閣議決定された今年、自衛隊海外派遣の必要性を意味する「湾岸戦争のトラウマ(心的外傷)」という言葉が蘇(よみがえ)り、何度か新聞にも登場した。

一九九一年、クウェート占領中のイラク軍を多国籍軍が攻撃した湾岸戦争で、日本は百三十億ドル(当時のレートで一兆七千億円)という巨費を拠出した。だが、クウェート政府が米国など三十カ国に謝意を示す広告を米紙に掲載した中に日本の国名はなかった。

「カネだけではだめだ」との思いがトラウマとなり、翌九二年、日本は国連平和維持活動(PKO)協力法を成立させ、自衛隊の海外活動を本
格化させるきっかけになった。

だが、九三年に使途が公表された追加分九十億ドル(同一兆一千七百億円)の内訳をみると、配分先のトップは米国で一兆七百九十億円、次いで英国三百九十億円と続き、肝心のクウェートへは十二カ国中、下から二番目の六億三千万円しか渡っていない。大半は戦費に回され、本来の目的である戦後復興に使われていないのだから、感謝の広告に日本が出てこないのもうなずける。

「外交失敗のトラウマ」というならまだ分かる。実際には自衛隊の海外派遣が検討される度に「湾岸戦争のトラウマ」という言葉が繰り返され、ついに集団的自衛権をめぐる議論にまで登場した。まやかしのトラウマは、いまなお健在である。 (半田滋)