週のはじめに考える 教育は空爆より強し-東京新聞(2014年10月27日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2014102602000163.html
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イスラム国が恐れるものとは空爆より教育なのかもしれません。とりわけ女性への教育。過激主義はおかしいと考えさせることこそが最大の敵なのです。

思い出してもみてください。二年前の十月、パキスタンで起きたことを。学校帰りのバスの中で、マララ・ユスフザイさんが、乗り込んできたタリバン運動の男たちに頭めがけて銃撃されたのです。

その時まだ十五歳の少女。ただしほかの子と違って、子どもたちに教育を、学校へ行こう、とネットで発信していました。

だが、それだけのことでなぜタリバンは襲わねばならなかったのか。殺そうとまでしたのか。

タリバンの怖いもの
それは、タリバンにとって、教育こそが自分たちの存在を、将来を危うくするからです。

マララさんがノーベル平和賞に決まる少し前、米紙(ニューヨーク・タイムズ国際版)に著名な政治コラムニスト、ニコラス・クリストフ氏が書いていました。コラムの題は「過激主義者たちが私たちに教え得るもの」。

ちょうどイスラム国がイラクのモスルに侵攻し、その地の女性運動家サミラ・アル・ヌアイミさんを拷問の末、公開処刑した直後でした。タリバン同様、イスラム国も女性の教育と権利を恐れたのです。彼女は拷問でも意志を変えなかったのでしょう。

コラムの要点は、

  • 過激主義者たちは戦闘のため短期的に武器を使うが、長期的には西欧の教育と闘い、女性に権利を与えないようにする。なぜなら女性が読み書きできず、無学のまま抑圧しておくことが過激主義の増殖に役立つ。
  • イスラム国攻撃に使う米国の軍事費は、少なくとも年間二十四億ドル。またその数倍か。それなのにオバマ政権は公約でもあった二十億ドルの世界向け教育基金をいまだ支出していない。
  • 少女への教育は少年への教育より効果的。出産する子どもの数が減り、将来テロリストになりやすい若者の過剰な増加を防ぐ。
  • シリア内戦で、トルコ、ヨルダン、レバノンに脱出した難民は約三百万人。今はその子どもたちへの教育の好機である。

クリストフ氏はコラムニストらしく米国よりもイスラム国の方がよほど教育の効果を知っているじゃないか、と皮肉ったのです。空爆の効果を否定しないが、教育の力を忘れるな、というのです。

◆女性指導者はどこに
教育の効果というと、気の長そうな話に聞こえるが、米国などの軍事行動でイスラム国を壊滅させるには早くて三年、長ければ十年以上ともいわれます。

しかしもしその十年の間、子どもらに教育の機会がないのなら、少年は学ばずに成人となり、銃を構えるテロリスト兵士になっているのかもしれない。その意味で教育はじつは即効的なのです。

もちろん教育を受ければテロリストにならないということでもない。過去の日本赤軍、またアルカイダビンラディンザワヒリ容疑者は大学教育を受けている。しかし知識や自分で考える力はテロを退けようとするはずです。

コーランには、偶像崇拝者には容赦するなという章句があり、同時に人を殺すなという章句もあります。過激派は自分らに都合のよい部分を神の命令のように言っているだけなのです。

女性に話を戻せば、イスラム識者はよくこんなふうに言う。

米国ではまだ女性大統領の当否が議論になるが、イスラム世界ではもう女性の指導者が出ている。パキスタンベナジル・ブット首相、トルコのチルレル首相、インドネシアのメガワティ大統領。

西洋はイスラムの族長、家父長制を封建遺物のようにいうが、実は、米国の方がずっと遅れているのではないか、というのです(欧州では英国サッチャー首相、ドイツのメルケル現首相がいますが、日本にはさて、まだいません)。

マララさんが身につけているスカーフ、またベールはアラビア語ではブルク。覆い隔てるという意味。男性を刺激させない、また砂や日差しよけともいいます。

◆宗教を利用した強制
顔や髪をどれくらい隠すのか、布は黒か色柄か、それらは国々で違います。つまりその地の歴史や文化の反映でもあります。それらを権力支配のため、宗教にことよせて強制するのが過激派です。

イスラム国は西欧の過去の植民地主義の否定を大義とするが、それを訴えるのに暴力は果たして正しいのだろうか。教育はそれを教えます。考えさせます。だから過激主義者は怖いのです。

テロの増殖を防ぐには、国際的な交渉も結束もまた武力も必要になるでしょう。しかし、教育の力もまた忘れてはなりません。