(筆洗)「食事は大地に近いほどうまい」...じわじわとにじみ出るドキュメンタリー映画『聖者たちの食卓』-東京新聞(2014年10月18日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2014101802000130.html
http://megalodon.jp/2014-1018-1549-19/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2014101802000130.html

「食事は大地に近いほどうまい」。食べることにこだわった小説家・開高健氏の言葉だ。東京を皮切りに各地で上映されている『聖者たちの食卓』は、インドの大地の滋味が、じわじわとにじみ出るドキュメンタリー映画だ。
舞台は、シク教の聖地「黄金寺院」。無数の人が映し出されるが、彼らが何か印象的な言葉を発するわけでも、劇的な展開があるわけでもない。
身を清め寺院に入った人々は、ニンニクの薄皮を一つ一つ丁寧にむき、山と積まれたショウガやタマネギを黙々と刻む。巨大な釜が熱せられ、カレーが作られていく。黄金寺院では日々、十万人分の食事が用意されるという。
インドにはカーストという厳しい身分制度がある。生まれながら貴賤(きせん)を決められ、それを運命として受け入れることを強いられてきた。だがシク教は「人間が子宮の中にいるうちは、カーストなどありはしない」と教える。
その象徴が何百年も受け継がれてきたランガルと呼ばれる無料の食堂。地位や性別、年齢に関係なく、ともに料理をし、同じ床に座って食べ、後片付けをする。誰もが公平に働き、おなかを満たし、幸せな気分になる。それ自体が「聖なること」なのだ。
スクリーンの中でカレーをほおばる人々の瞳の輝きを見るうち、開高氏のこんな言葉を思い出した。「心に通ずる道は胃を通る」。じっくり噛(か)みしめたい至言だ。


関連サイト)

“毎日10万食無料”舞台裏追う、インド黄金寺院の聖なるキッチン。-Narinari.com(2014年6月15日)

http://www.narinari.com/Nd/20140626405.html

☆10万人の食卓 “ランガル(=無料食堂)”のルール

  • 寺院に入る前は、手を洗い、靴を預け、足を清める
  • 宗教、階級はもちろん、女性、男性、子どもがすべて一緒に座る
  • ターバンまたは、タオルを着用(レンタル有)
  • 残さず全部食べること、お代わりは自由
  • 使った食器は指定の場所へ戻す
  • 酒、たばこ、革製品の持ち込みは禁止
  • 一度の食事を5,000人でとるので、譲りあいを忘れない