時代の正体(10)排他の空気 ときを彫る(上) 靖国批判作品撤去求められた中垣克久さん-神奈川新聞(2014年8月6日)

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唐突に男性学芸員は迫ったという。「作品を撤去して下さい」。2月16日、展覧会が始まって2日目のことだった。

問題とされたのはドーム型の作品「時代の肖像」を覆う貼り紙の文言だった。

〈戦争で他国も自国も傷つけた間違いを犯した国〉

憲法九条を守り、靖国神社参拝の愚を認め、現政権の右傾化を阻止して〉

中垣さんは安倍政権による特定秘密保護法や安全保障政策の見直しに「『戦争をする国』への変質を見ていた」。古墳に模した作品に「日本の平和の終焉(しゅうえん)」を刻みたかった。

「どの文言が悪いのか」。問い返す中垣さんに学芸員は「全部悪い」。押し問答は1時間ほど続き、展覧会の中止まで示唆された。中垣さんが代表を務める現代日本彫刻作家連盟のグループ展だった。

「個展なら撤去要請をはねつけられた。展覧会が取りやめになれば他の作家の表現の場まで奪われることになる。続ける責任があった」

話し合いの末、美術館側は「これだけははがしてください」と指定してきた。靖国参拝を批判した貼り紙だった。

美術館側は「中垣さんの作品は都が定める運営要綱の『特定の政党・宗教を支持、反対する場合は使用させないことが出来る』という規定に該当すると判断した」。広報担当者は「来館者から作品を問題視する『問い合わせ』が寄せられていた」とも説明する。ただ、「中垣さんの作品のどの部分が規定に該当するかは公表していない」と言葉を濁す。

貼り紙をはがし、展覧会は続行された。中垣さんは「身が焼かれる思いだった」と振り返る。

騒動はほどなく報道で表沙汰になった。インターネットでは、美術館の対応を擁護するものや中垣さんの表現手法への批判が多く出たことを伝え聞いた。

「自由な批判も言論だ。僕は受け入れたい」と中垣さんは言う。「しかし」と問い掛ける。

「権力側の意向を忖度(そんたく)し、右寄りな人たちの批判を招きやすい、美術館にとって不都合なものを抹殺しようとし、実際に作品の一部を排除した。表現の自由、思想信条の自由が簡単に侵されたことが、どれだけ社会で深刻に受け止められているだろうか」