平和宣言:集団的自衛権NO言えぬ広島市に怒り-毎日新聞(2014年8月2日)

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◇「正義の戦い」信じた90歳、旧ソ連に抑留されて

6日の広島平和記念式典で広島市松井一実市長が読み上げる平和宣言。「戦争につながる」などとして集団的自衛権行使容認の閣議決定に反対する主張を盛り込むよう求める署名は5591筆に及んだが、市民の思いは届かなかった。第二次大戦後、旧ソ連に抑留された楠忠之さん(90)=広島市西区=も署名を寄せた一人。1947年に日本国憲法全文をしたためたノートを今も大切に保管しており、明確に反対しない市の姿勢に疑問を呈している。

楠さんは広島高等師範学校(現広島大教育学部)を卒業した43年、海軍予備学生に志願。「当時は『正義の戦い』と信じていた」。満州(現中国東北部)の旅順に渡り、終戦後は旧ソ連・マルシャンスクの国際収容所に抑留された。

氷点下30度での作業にも耐え、47年12月に帰国。爆心地付近にあった下宿先は、結婚や就職で広島を離れていた人を除き、みな亡くなっていた。「正しいと思っていた戦争で、こんな悲惨なことに……」と思い知らされた。

焼け跡にできた図書館で、初めて目にした新憲法は日英両語で併記されていた。「戦争を起こすのは政府だ」。衝撃を受け、A5判のノートに全文を書き写した。

広島文理科大(現広島大)教育学部に再入学後の50年に朝鮮戦争が勃発。再び核兵器が使われる恐れが取りざたされた。教授も巻き込み、集まった核兵器の禁止を求める署名は10万人分近くに。世界からも5億の署名が集まり、米国が核兵器を使用することはなかった。「世界の世論が政治を動かした。運動の原点です」

平和宣言で集団的自衛権の行使容認への懸念を表明する長崎市に対し、憲法の崇高な平和主義に触れながらも、それを脅かすものへの批判を避けた広島市被爆建物の保存運動に尽力する楠さんは閣議決定について「戦争を知らない安倍さんが、総理の立場で解釈をゆがめることは許し難い」と憤り、広島市の姿勢には「なぜ遠回しに言わなきゃならんのか。平和主義に反する集団的自衛権には、明確に反対してしかるべきだ」と語った。