憲法学の長老、樋口陽一さんに聞く-朝日新聞(2014年8月2日)

http://digital.asahi.com/articles/CMTW1408020400001.html
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――閣議決定による憲法9条の解釈変更を、どうとらえますか。

「安倍首相の憲法へのニヒリズム虚無主義)を感じます。去年は(国会議員の3分の2を改憲発議の要件とした)憲法96条を変えようとした。小林節・慶応大名誉教授は『裏口入学』と評しました。今度は裏口どころか、表玄関から土足で9条に入ってきた。憲法をあって無きがごとくに扱うだけでなく、その変わりようもニヒリズムという語がぴったりです」

「歴史に責任を負う決断をするにしては、安倍首相は実に明るく、ほがらかです。『様々な批判や論点を考え抜いた末、これしかないという結論に達した』というのではない。『皆さん安心して』『心配はいりません』と繰り返すだけ。これもニヒリズムではないでしょうか」

――首相は、集団的自衛権行使を認めることが抑止力になると言います。

「抑止力とは、相手との関係を前提にしています。米ソが核配備を競った時代も、米ソが世界を二分するという共通利益があったからこそ、抑止力は利いていた。安倍首相は、村山談話河野談話をないがしろにし、中国、韓国との首脳会談も実現していない。東アジアの共通の利益を探す努力なしには、抑止力は成立するはずがありません」

「私は現在も将来も、憲法9条に触れることに反対の立場です。ただ、戦後日本が歩んだ道を積極的に確認した上で、戦前戦中の歴史への立場を明確にし、東アジアで相互理解を進め、国民のコンセンサスを得て9条を改正する選択は、ありうる。そうした『まっとうな9条改憲論』も、安倍首相はぶち壊した」