春子ママの声を聞け!:私説・論説室から-東京新聞(2014年7月9日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2014070902000132.html
http://megalodon.jp/2014-0709-1646-32/www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2014070902000132.html

不意に耳元でこだました。

「普通にやって、普通に売れるものをつくりなさいよっ!」
 昨年、人気を博したNHKの朝ドラ「あまちゃん」で主人公の母、春子(小泉今日子)が言い放った台詞(せりふ)である。主人公が所属するアイドルグループの歌声を勝手に加工し、ロボットのような声に変えたプロデューサーが相手だ。この男は過去、春子にも「口パク歌手の影武者」を強要した「前科」があった。

そんな禁じ手や奇策を弄(ろう)して生き延びてきた「いかさま師」に対して、春子の台詞はまさに正論だったから、大いに留飲が下がったものだ。その台詞がふと、頭に−。

そう、安倍政権の新成長戦略である。国民の大切な年金資金を使った株価つり上げ策や、残業代ゼロの長時間労働につながる労働規制の見直し、安い労働力を都合よく使う外国人実習制度の拡大、原発や武器輸出に続いて、賭博の合法化となるカジノ解禁とくる…。

普通にやらずに、いとも簡単に禁じ手、奇策に走る。この政権の体質を示す最大の特徴である。集団的自衛権をめぐる手法も同じ。「選挙に勝てば何でもやれる、政権は全能だ」−そんな傲慢(ごうまん)かつ姑息(こそく)さを感じるのである。

次から次へ好きなように国のかたちを変えていく。市場の公正さを歪(ゆが)め、海外からの信頼を失い、働く人の不利益を増幅しても。これが目指す「美しい国」なのか。